(矢原徹一:九州大学大学院理学研究院教授)

 今年、結成10周年を迎える「ももいろクローバーZ」(ももクロ)。路上ライブからスタートして、紅白歌合戦に出場するという夢を実現し、さらに女性グループではじめての国立競技場ライブを成功させ、トップアイドルの地位を不動のものにした。その5人のメンバーの一人、有安杏果は、ももクロからの卒業を1月15日に発表し、1月21日に卒業コンサートを行ない、足早にももクロを去っていった。10周年を目前にして彼女はなぜこの決断をしたのだろうか。

ファンには理解しがたい突然の卒業

 卒業発表からわずか6日後に幕張メッセで開催された卒業コンサートには3万人のファンが集まり、コンサートの様子はネットテレビ「AbemaTV」で全国に生中継された。有安はメンバー一人ひとりにお礼の言葉を述べた。佐々木彩夏からは「いつもアイドルでいる姿勢」を、玉井詩織からは「いつも全体を見て冷静でいるやさしさ」を、リーダーの百田夏菜子からは「すべてを引き受けて安心させてくれる責任感」を、そして高城れにからは「自分がどんなに苦しくても笑顔で人を励ます暖かさ」を学んだという。このやりとりを見ても、5人の関係はすばらしく良好であり、メンバーの間の人間関係が卒業の原因とは考えられない。

 有安の卒業に対する所属事務所側の対応は見事だった。新聞社やTV局にメンバー5人が出向いて挨拶をし、お世話になってきた方々に5人が直接説明してお礼を述べた。この迅速で徹底した情報公開によって、さまざまな憶測が広がる機会を与えなかった。その結果、本人がこれからの人生を考えぬいた上での決断であること、他の4人を含め周囲から祝福されながら卒業することがさまざまなメディアで報道され、急な卒業を惜しみつつ、彼女のこれからの人生を励ます声があいついだ。そして卒業コンサートという感動的なステージが用意され、多くのファンに見送られながら彼女はステージを降りた。この経緯から分かるように、所属事務所と本人の関係もきわめて良好であり、事務所の対応に不満があって卒業したわけではない。