国民の直接的な負担はないとされてきたマイナス金利政策が、じわじわと実生活に影響を及ぼし始めている。2018年中にも日銀が何らかの形で金融政策の見直しを行うとの見方が強まっているが、金融政策単体ではなく、包括的な議論が必要な時期に来ている。

公的年金が持つ10兆円の現金にも影響が

 公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、銀行が日銀に支払うマイナス金利分を負担する方針を固めた。

 GPIFは現在、150兆円を超える資産を運用しているが、すべてが株式や債券になっているわけではなく、ある程度の現金も保有している。株式や債券から配当金などが入金されてくるほか、銘柄の入れ替えや益出しの際にも現金化が行われる。これに加えてGPIFの場合、毎年、国庫補填をしなければならないという特殊事情もある。

 これまで日本の公的年金は、安全第一という観点から主に国債で運用されてきた。だが安倍政権はこの方針を180度転換し、株式を中心とするリスク運用にシフトした。運用方針を変えた最大の理由は、日本の年金財政が赤字になっており、積立金の運用益を増やす必要があったからである。

 日本の公的年金は賦課方式といって、老後の資金を自身が積み立てるのではなく、現役世代から徴収する保険料で高齢者を扶養する仕組みになっている。この方式には高齢者が増えると現役世代の負担が増加するという特徴があり、すでに、現役世代から徴収する保険料よりも、年金受給者に給付する年金の方が額が大きくなっている。このままでは大幅に給付を抑制しない限り、年金財政が破綻してしまう可能性が高い。

 GPIFは毎年、年金特別会計から資金を受け入れ、運用益を出したうえで、その利益を年金特別会計に償還している。常に国庫との資金のやり取りが発生するため、結果としてGPIFは、ある程度の現金残高を維持する形になる。2019年9月末時点における現金を含む短期資産の残高は約14兆円。これまでなら、現金を保有していても大した問題にはならなかったが、マイナス金利政策の導入が状況を変えた。