数学の世界には、謎がまだまだたくさんある。

 近ごろ、数学の業界は、重要未解決問題である「ABC予想」が証明されたようだ、という話題で盛り上がっています。証明を発表したのは京都大学数理解析研究所の望月新一教授(1969~)で、その証明論文は全部で600ページを超える膨大な代物です。これをプリントアウトした人、世界に何人いるんでしょうか。

「近ごろ」といっても、その論文は2012年にウェブ上に発表されたものです。何年も経てば、普通は、ホットな話題も温度が下がってくるものですが、そうはならずにかえって沸騰している理由は、その証明がどうやら正しいようだと認められ、学術誌に掲載されることになったためです。この膨大な論文はあまりに難解で、数学業界が理解するのに今までかかったというのです。

 けれどもこの件についての世間の報道は、望月教授の生い立ちや人柄に多くのバイト数を費やして、ABC予想そのものについては、難解すぎるためか、触らぬ数学にたたりなしという態度をとるメディアが多いようです。

 確かに、数学者も解読に難儀する600ページの証明をここで分かりやすく説明するのは、まあはっきりいって無理なんですが、男には負けると分かっていても戦わなければならない時があるとキャプテンハーロックも言ってます。どんな予想で、何がすごいのか、解説を試みましょう。

ABC予想とは

「ABC予想」、別名「オスターリ・マッサー予想」とは、フランスのパリ第6大学*1 のジョゼフ・オスターリ博士(1954~)とスイス・バーゼル大学のデイヴィッド・マッサー教授(1948~)が1980年代に発表した予想です。

*1:パリ第6大学は、2018年1月よりパリ第4大学と合併。

 数学業界における「予想」とは、「まだ誰も証明できないけど、△△という定理が成り立つような気がするなあ」という主張です。

 誰かがこういう予想をすると、これを証明したくなったり、あるいはこれが間違っていることを証明したくなったりするのが数学者という人種です。なんでそんなことをしたくなるのか理解できない方が人類の多数派と思われますが、数学者のそういうモチベーションによって、世の中は進歩してきました。