『幕が上がる』を上映中の映画館「新宿バルト9」

 困難なプロジェクトをどのようにして成功に導くか。この普遍的な問いに、映画『幕が上がる』は1つの答えを出している。

 この映画製作は、本広克己監督がアイドルグループ「ももいろクローバーZ」(通称「ももクロ」)に興味を持ったことから企画された。ももクロがアイドルとして人気者であるとはいえ、彼女たちの主演映画を成功させるには、「アイドル映画はヒットしない」という現実を突破しなければならない。アイドルは役者としては素人だから、演技に目の肥えた映画ファンはアイドル映画を敬遠する。映画ファンが敬遠する企画には、予算がつかない。予算がつかなければ、作品の質も下がる。その結果、「アイドル映画」はつまらないという評価が上書きされ、ますます予算がつかなくなる。この悪循環に陥っているのが「アイドル映画」だ。この困難な状況を突破するにはどうすればよいか?

ベストのスタッフが集い、はるかな高みを目指す

 本広監督がとった選択は、王道である。彼はベストのスタッフを揃えた。

 原作は、現代演劇をリードする平田オリザの小説デビュー作だ。弱小演劇部の高校生たちが、「大学演劇の女王」だった新任教師に導かれて全国大会を目指すという青春ドラマだが、実は平田オリザの演劇技法論が書きこまれており、内容は深い。劇中劇として宮沢賢治の名作『銀河鉄道の夜』が描かれている点も魅力的だ。ももクロ主演でなく、オーディションで役者を選んで製作すれば、ヒットは間違いないと思える傑作だ。