イスラム国による残虐なやり方での世界秩序への挑戦が暗い影を落としている。その影は欧米諸国のみならず日本の大学生までも巻き込んで世界中に広がりを見せ始めている。

テロや国際紛争の温床は無政府状態の真空地域

 現在、覇権国家として世界秩序の形成をリードする米国に対してチャレンジしている主な勢力は、中国、ロシア、そして非国家勢力(Non-state power)である。

 このうち、中国とロシアに対しては、武力や経済力による抑止や関与といった米国の従来からの秩序維持手段がある程度有効に機能している。しかし、非国家勢力に対しては米国の圧倒的な武力や経済力が効果的に働いているようには見えない。

夜空にのびる光のタワー、米同時テロから13年

米ニューヨークで、米同時多発テロから13年の日を翌日に控え行われたライトアップ「追悼の光」 ©AFP/TIMOTHY A. CLARY〔AFPBB News

 2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件以来13年が経過したが、非国家勢力による様々な形での米国、あるいは世界秩序へのチャレンジが収まる気配はない。

 非国家勢力がテロリズムや国際紛争を引き起こす根本的な原因は、当該地域に国家のガバナンスが機能していないことであると言われている。すなわち、治安の確保、貧困救済、社会衛生管理、教育機会といった社会安定のための最低条件が保証されていない無政府状態の地域=真空地域がテロや国際紛争の温床となっている。

 そうした真空地域は中東、アフリカでは広範囲で見られるが、アジアにはそうした地域が少ない。その一つの原因は、アジア諸国の大半が経済成長モデルの導入に成功し、経済発展を遂げつつあり、それが貧困の撲滅と共に、水道、電気、学校、病院といった基礎的な社会インフラの整備を可能としている面が大きいと考えられる。

 もちろん、地域の経済発展だけで非国家勢力によるテロや国際紛争を解決できるわけではない。中東諸国は地域全体としては豊かであるにもかかわらず、ガバナンスが不十分なために紛争が頻発している。

 とは言え、テロや国際紛争の温床のかなりの部分(米国の著名な安全保障の専門家がイメージとして語ってくれたのは約8割)は貧困の撲滅、経済発展の促進によって問題が緩和される可能性が高いと考えられる。

日本モデルの導入により経済発展を実現しているアジア

 現在の世界を見回してみれば、第2次大戦後約70年間の歴史の中で、長期安定的な経済発展の実現に成功している国家が集中している地域はアジアである。

 戦後、アジアの中で最初に経済成長を軌道に乗せたのは敗戦国である日本だった。首都東京が焼け野原となり、広島と長崎に原爆を投下された日本が復活する可能性はないと思われていたはずである。その日本の経済発展は当時の世界から見て奇跡だった。