日銀名古屋支店は4月13日、4月の「東海3県の金融経済動向」を発表した。景気の総括判断は「持ち直しを続けており、業種間・企業間の格差も徐々に縮小している」とされ、4カ月ぶりの判断上方修正となった。東海3県とは、愛知県・岐阜県・三重県を指している。

 ただし先行きについては、「特に一部自動車のリコール問題の影響や、各種政策の効果の持続性と政策終了後の反動の大きさ、海外経済の情勢、為替相場の推移、資源価格上昇の影響等を注視する必要がある」という、慎重な書きぶりになった。前回3月分では「特に一部自動車のリコール問題の影響や、海外経済の情勢、為替相場の推移、各種政策の効果の持続性と政策終了後の反動の大きさ等を注視する必要がある」となっていたので、今回新たに「資源価格上昇の影響」が加わった形である。

 これは、原油価格の上昇に限った話ではない。日本の大手鉄鋼各社と豪州などの資源大手との間で、鉄鉱石や鉄鋼原料用石炭(原料炭)の4-6月期の大幅値上げが決まったことの影響も念頭に置いた記述であろう。報道によると、鉄鋼各社の4-6月期の原材料コストは3000億円程度増える見通し。これをどこまで鉄鋼製品の売り渡し価格に転嫁できるか、さらには、コスト増を転嫁された場合に自動車・電機・造船といった業界がどこまで製品販売価格に転嫁できるかが焦点となる。2008年の資源価格高騰(資源バブル)局面で展開されたコスト増加分の押し付け合い、いわばトランプの「ババ抜き」的な状況が再現されつつある。

 そして、所得面の弱さから個人消費に力強さがなく、エコカー減税やエコポイントといった政策面からの支援効果も先行き減衰していくことが避けられないだけに、今回の「ババ抜き」には前回を超える重苦しさが漂っているように思われる。自動車の販売状況がまずまずの状況にあった2008年度の「リーマン・ショック」前までの時期と異なり、販売台数の水準がかなり低いことから、今回は同じ原材料の価格高騰でも環境は全く異なっており、「営業赤字が残るなか、(コスト高を負担できる)余力はない」、という自動車業界関係者のコメントが伝わっている(4月2日 日経新聞)。14日には、最大手自動車メーカーが納入部品各社に対し、4~9月の購買価格を1.5%引き下げる要請をしていることが明らかになったと報じられた(4月14日 日刊工業新聞)。2011年3月期の営業黒字転換が命題になっており、調達コストの低減を加速するという。

 これより前、4月1日には、東海3県の日銀短観3月調査の結果が発表された。業況判断DIは、全産業が▲26(調査対象企業見直し後の前回調査再集計結果比+9ポイント)。うち製造業は▲25(同+12ポイント)、非製造業は▲28(同+6ポイント)になった。全国ベースの数字(全規模合計・全産業)は、全産業が▲24、うち製造業▲23、非製造業▲25である。

 米国の過剰消費に持ち上げられて輸出が堅調に推移していた2007年10月までの景気拡張局面では、日本経済のリード役とも言うべき東海3県の製造業のDIは、全国のそれを上回るのが常であった。しかし、「リーマン・ショック」の少し前、2008年6月調査から、東海3県のDIは全国を下回るようになった。そして、今回の2010年3月調査でもそうした状態が解消することはなかった。6月までの予測DIを見ても、全国のDIの方が、引き続き水準が高い。

 景気回復がしっかりしたものとなるためには、輸出の主力である自動車産業の影響が大きい東海3県の製造業の業況判断DIが堅調に推移し、その水準が全国のそれを上回って景況感改善の牽引役を果たしていくことが必要だと考えられる。しかし、直近3月調査の時点まで、そうしたことは実現しておらず、むしろ原材料コスト高騰に伴う交易条件の悪化という、企業業績および景気の回復を阻害する要因が、新たに出てきている。

 やはり、景気の先行きをこのまま楽観視すべきではないと考える。