会談に臨む自民党の高市総裁(右)と日本維新の会の吉村代表=15日午後、国会(写真:共同通信社)

(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)

野党側にとってこんな好機はない

 もし、来週、再来週あたりに野党連合政権が誕生するとすればこれは大変に面白い展開であろう。果たして、政局はどう動くのだろうか。

 連立の立ち上げに公明党が有する「統治の知恵」と「連立の知恵」を活用できる可能性があり、2000年代の「民主党政権の教訓」、90年代の「非自民・非共産8会派連立政権の教訓」も反省的に活かすことができるという意味において、本格的非自民政権誕生の「3度目の正直」となるかもしれないからだ。

会談に臨む(左2人目から)国民民主党の榛葉幹事長、立憲民主党の安住幹事長、日本維新の会の中司幹事長ら=16日午後、国会(写真:共同通信社)

 ただし、雲行きは怪しい。維新は自民党に急接近している。12項目の連立条件を突きつけ、自民党の側でも高市新総裁に交渉を一任するということで、本稿執筆(10月16日夕)直後に連立入りの有無が決まりそうな雰囲気すら認められる。政治報道も全体的に維新の連立入りを自明視している雰囲気も相当強い。

 だが、本当にそのように転がるものだろうか。

 通説通り、幾つかの組み合わせにより高市新総理が誕生したとしても、両院で少数与党であることは変わらず、百戦錬磨のパートナーである公明党が離脱しており、その舵取りはそれほど楽観視できるものではない。

 例えば、2025年10月15日に召集が目されていた臨時国会ですら、野党の反対により召集日そのものが揺らいでおり(今のところ21日召集予定も、首班指名選挙の日取りは確定していない)、パートナーを失った自民党の政権運営能力の低下を象徴しているのである。

 内閣不信任案の成立は法案成立よりもハードルが低い。来年の通常国会やそれ以前に行き詰まるか、解散も大いに考えられる。どの場合にも、やはり日本政界の姿は大きく変わるであろう。もはや、政界再編は起こるか否かではなく、早いか遅いかの問題にすら思えてくる。

 長く連立を通じて、部分的な「統治の知恵」と、連立維持のための「連立の知恵」を共有する公明党が連立を解消し、政策協議を含めて野党の側につく可能性を示唆するこんな好機は、いまを逃せば、次、いつ生じるかわかったものではない。

 もちろん、野党連合政権が誕生したとして、参議院では過半数に至らず、国民の信任を得ているともいえない不安定な政権になることは避けられないであろう。しかし、盤石な政権交代の体制の整う日を待っていてもそんな好機は訪れないかもしれない。

 その場合、新政権は現状の政策の踏襲を基調としながら、喫緊の課題に集中すべきである。例えば、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会が既に合意していて国民から一定の信任を得ている政策を迅速に実行することが考えられる。

 政府は、ガソリン価格高騰対策として補助金を導入し、平均小売価格を抑えているが、恒久的な対策ではない。ガソリン暫定税率廃止のような、より直接的で恒久的な価格抑制策として国民の支持を得やすいのではないか。

 これに加え、自民党政権が放置してきた政治とカネの問題の抜本改革、そして足もとの物価高対策に注力し、一定の目処がつき次第、直ちに解散総選挙で国民に信を問えばよいのではないか。

 ガソリン暫定税率廃止によるガソリン減税が成功裏に実施され、自公の選挙協力が解消された状態での選挙となれば、自民党は小選挙区で大きく議席を失うだろう。そこから、本格的に令和の政界再編が始まるのではないか。

 自民党が割れたり、野党再編が進んだりすることも十分視野に入ってくるはずだ。そもそも野党連合政権が誕生した暁に、自民党は暫定税率廃止に反対するだろうか。逆に自民党維新政権が誕生した場合も同様だ。そのとき野党各党はガソリン暫定税率に反対するのだろうか。

 野党に対して「政権担当能力が不安だ」という声は今でも相当根強い。しかし、「政権担当能力」は政権を担当しないと身につけることはできないのである。

 政権は省庁よりも大きく、その運営は「予行演習」することすらできない。その意味では、長らく政権を担い、官僚機構との関係を築いてきた自民党が「統治の知恵」を独占してきたと言える。野党には「統治の知恵」がなく、圧倒的に不利な状況に置かれている。

 政権担当能力論で批判を続けるならば、野党にはいつまで経っても機会が回ってこないことになる。政治学者の丸山眞男が指摘した「現実主義の『陥穽』」に他ならない。