
写真提供:共同通信社
第4次ロボットブームの到来で、米中を中心に熾烈(しれつ)な開発競争が繰り広げられている。背景にあるのは「生成AIの進展」「人口減少」「人手不足」。日本にとってもロボットは社会や経済活動を維持するための生命線だ。本稿では『ロボットビジネス』(安藤健著/クロスメディア・パブリッシング)から内容の一部を抜粋・再編集。最先端のロボット技術と活用事例を紹介するとともに、今後の可能性を考察する。
驚異的なスピードでロボット導入を進めるアマゾンは今、「モラベックのパラドックス」と呼ばれる、最後の大きな課題に直面している。色や形などが異なる大量の商品を、人間並みにいかに素早くロボットにピッキングさせるか。倉庫内作業にとどまらない、ロボットを活用した同社の戦略に迫る。
最後の難題、モラベックのパラドックス

ある日、あなたがオンラインショッピングで注文した商品が、注文からわずか数時間で手元に届く。これまで紹介してきたように、この驚異的なスピードと正確さを支えるのは、アマゾンの倉庫で働くロボットたちです。そして、いま、彼らが直面している最後の難題、それが「モラベックのパラドックス」です。この言葉を聞いたことがあるでしょうか。
モラベックのパラドックスとは、簡単に言えば、ロボットがチェスのような知的な課題を解決するよりも、赤ん坊でもできる身体的な動作を習得するほうがはるかに難しいという現象を指します。倉庫のなかでの業務で言えば、段ボールや棚の中から異なる商品を取り出す「ピースピッキング」と呼ばれる作業は、依然として大きな壁となっています。
特にアマゾンという数百万レベルの大量の種類の商品を扱う企業にとっては、ロボットで実現する難易度は段違いに高くなるのです。かたちや大きさ、素材、色などが毎回異なる商品の取り扱いは、人間にとっては何も考えずに日常的、かつ、無意識レベルで次から次へとおこなう簡単な動作ですが、ロボットにとっては非常に難しい課題です。
このピースピッキングの問題を克服するために、アマゾンは自社のロボット部門であるアマゾンロボティクスを通じて、研究開発に積極的に取り組んでいます。彼らは最新のAI技術を駆使し、ロボットが柔軟に物を掴む方法を模索しています。