出所:Jakub Porzycki/NurPhoto/共同通信イメージズ出所:Jakub Porzycki/NurPhoto/共同通信イメージズ

 日本の基幹産業と呼ばれる製造業。しかしながら近年は、国際競争力の低下が叫ばれ、さまざまな課題が指摘されている。日本の強みを生かし、競争優位を生み出すためにはどのような視点が必要なのか──。2024年12月、書籍『日本のものづくり哲学(増補版)』(日経BP 日本経済新聞出版)を出版した早稲田大学大学院教授の藤本隆宏氏に、日本の製造業が世界で戦うために必要な戦略論について聞いた。

「分業型の組織能力」に優れた中国企業

──著書『日本のものづくり哲学(増補版)』では、日本とは異なる強みを持つ中国の製造業について触れています。中国企業はどのような点に強みを持つのでしょうか。

藤本隆宏氏(以下敬称略) 中国の製造業は、後で話す歴史的な理由から「組み合わせ型」(モジュラー型)の設計思想(=アーキテクチャ)に基づいた製品に強みを持つ傾向があります。

 モジュラー型とは、市販部品や既存の機能部品を組み合わせて作るタイプの製品を指し、シンプルな設計から成り立つことが特徴です。アプリソフトやパソコンはこのタイプに該当し、分業型の組織能力が発達した米国や中国がこの製品タイプを得意とします。

 逆に、欧州の一部の国や日本のように、調整型の組織能力(チームワーク)が発達した国の産業は、「擦り合わせ型」(インテグラル型)アーキテクチャの製品の国際競争力が高い傾向にあります。この製品タイプの代表例が、低燃費自動車、高性能産業機械、機能性化学品などです。

 そして、中国と米国の歴史は大きく異なりますが、それぞれの高度成長期には大量に労働力の動きがあった点は共通しています。