文=加藤恭子 撮影=加藤熊三 写真提供=基山商店
“熟したうまみ×ガス感”で、料理をランクアップ
熟したバナナを思わせる、円熟した甘い香り。口に含めば、細やかな泡がぴちぴちと弾け、やわらかなうまみ、爽やかな酸味が広がり、心地よいほどシャープな余韻を残す。これは間違いない。どんな料理も一段ランクアップさせてくれる度量の大きさと、繊細さを兼ね備えた名酒。
「基峰鶴(きほうつる)」といえば、近年、心躍るようなフレッシュさとやわらかな味わいで日本酒ファンの注目を集める、佐賀県の基山商店の代表銘柄。なかでも純米酒は、そのフラッグシップともいうべき存在で、12月にはしぼりたての新酒が発売される。
“ひやおろし”の円熟味とフレッシュさが共存
ところで “ひやおろし”とは、春先にしぼられた新酒を火入れ(加熱殺菌)し、秋に再度火入れすることなく“冷や”のまま出荷される日本酒。夏の間に熟成させることで、新酒の若々しさがまろやかなうまみへと変化する。秋から冬にかけて、少しずつ瓶の中でもさらに熟成が進み、果実が甘く熟していくようにうまみが深まるのも魅力だ。
杜氏の小森賢一郎さんはこう話す。
「しぼりたてのフレッシュ感をできる限り損なわないよう、もろみをしぼったら2日以内に瓶詰めし、低温で管理しています。さらにこのひやおろしもそうですが、限定流通の酒は、瓶詰めしてから昔ながらの湯せんで火入れしています。手間がかかりますが、発酵によって発生した炭酸ガスを瓶内にしっかり閉じ込められます」