(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年5月10日付)

AIは中所得者の仕事を主に奪っていく・・・

 西暦1900年の英国には馬が330万頭いた。こうした動物は牽引力や輸送手段、騎馬を提供していた。

 今日ではレクリエーション用の馬しか残っていない。馬は時代遅れとなった技術だ。英国における頭数は75%ほど減った。

 では、人間もまた時代遅れの技術になり得るのだろうか。

 単に力が強いだけでなく、手先も器用で聡明で、さらには創造性も兼ね備えた機械に取って代わられてしまうのだろうか。

 そんな脅威はまだ先の話だと言われている。ただ、これはそう信じるか信じないかの問題だ。

 ひょっとしたら機械は、人間であることと人間と同じように他人を思いやることは別として、我々がやらねばならないことの大半を我々よりもずっと上手にこなすかもしれない。

 しかし、たとえそのような革命の脅威がないとしても、人工知能(AI)の最近の進歩は非常に重要だ。

 ビル・ゲイツ氏によれば、AIはパソコン以来の重要な開発成果だ。

 では、どんな影響がもたらされるだろうか。そうした影響を我々は制御できるのだろうか。

中所得の雇用を空洞化させたイノベーション

 この問いについては、雇用と生産性から考え始めるのが自然だろう。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)のデビッド・オーター氏らの論文には、過去に起こったことについての有用な分析枠組みと、思わず考え込んでしまう結論が記されている。

 この論考は、労働を拡張するイノベーションと労働を自動化するイノベーションを区別する。

 そして「現在ある雇用の大部分は、1940年以降に導入された新しい職業分類に属している」と結論づけている。

 だが、1980年以前は中所得の製造職や事務職に新しい仕事の中心があったのに対し、1980年以降は中心が高所得の専門職に移行し、副次的に低所得のサービス職にも移行している。

 つまり、イノベーションは中所得の雇用を空洞化させているわけだ。