(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年4月20日付)

なぜ新しいワシントン・コンセンサスが必要になってしまったのだろうか

 もしタイムワープがお好きなら、ビル・クリントン大統領(当時)が2000年に行った演説の原稿を読んでみるといいだろう。

 中国の世界貿易機関(WTO)加盟を承認するよう連邦議会に促したときの演説で、中国の加盟は米国人を豊かにし、中国の自由への転向を後押しすると語った。

「中国がインターネットを取り締まろうとしていることは疑う余地がない」

 クリントン氏は嘲笑を甘んじて受け入れた。

「幸運を祈ろうではないか。しょせん無理な話なのだから」

過去はまるで別世界

 それから四半世紀弱。中国はグレート・ファイアウォールなるものを張りめぐらせており、ワシントン・コンセンサスは死亡宣告を受けて久しい。

 この呼び名は、とある英国人エコノミストが1989年に使い始めたもので、コンセンサス(合意)の中身は自由市場の原則だった。

 米国が保証人で、世界銀行や国際通貨基金(IMF)がその脇を固めていた。

 10項目に及ぶ原則は、すべて経済関連だった。冷戦終結直後のこの時代、地政学は重要ではなくなっていた。

 過去は別世界だ。

 中国を世界に統合する目標は、この国をいかに排除するかという議論に取って代わられた。

 ワシントン・コンセンサス全盛期のクリントン演説を、中国との間に距離を置くことが重点的に話し合われた先の主要7カ国(G7)外相会議と対比してみるといいい。

 1990年代に覇権を握っていたブレトンウッズ体制と、今日のグローバル経済の傍流に追いやられたIMF・世界銀行との違いの何と大きなことか。