(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年4月4日付)

ウクライナの首都キーウ(キエフ)の混雑したレストランで携帯電話がブルブルと音を立て始める。
ミサイル警報だ。住民は防空施設に向かうよう勧告される。
だが、レストランでは誰一人として微動だにしない。デザートが欲しい人はいるかと聞いて回るウエイターだけは別だ。
ありふれた日常と戦時の緊急事態
先週のこの出来事は、正常な状態と戦時の緊急事態が入り混じる首都の奇妙な空気をよくとらえていた。
キーウ郊外からロシア軍が駆逐されてから1年経った。
先週起きたように、まだ時折ミサイルとドローン(無人機)が首都を襲うが、キーウのインフラを破壊しようとするロシア軍の努力は失敗に終わった。
電気はついている。トラム(路面電車)は走っている。
ニューヨークのブルックリンや独ベルリンのような場所でも場違いには思えないようなカフェは、客でにぎわっている。
世の中はすがすがしいほど普通に見える。
ただし、もちろん、状況は普通ではない。東へ数百キロ行った先では、残虐な戦争が繰り広げられている。キーウの駅は戦線に向かう迷彩服姿の兵士でごった返している。
戦争で命を落としたウクライナ兵の人数は今も厳重に守られている秘密だ。
だが、非公式な推計では、10万人以上の兵士が死亡または負傷した。
マリウポリやバフムトといった街に対するロシア軍の攻撃で、何千人もの民間人も命を落としている。
空域が閉鎖され、黒海の港もおおむね封鎖されているため、ウクライナと外の世界の接触は厳しく制限されている。