(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年3月23日付)

アル・カポネが収監されていたペンシルベニア州フィラデルフィアにあったイースタン州立刑務所

 アル・カポネの逮捕には会計士の力が必要だったとよく言われる。

 だが、ドナルド・トランプは1920年代のシカゴ・マフィアのボスとは違う。

 前大統領にして再び大統領になる可能性もあり、比較的軽い罪で起訴されれば勝算がかえって高まるかもしれない人物だ。

 マンハッタン地区の担当検事が数日内にもトランプに手錠をかけるかもしれないとの見通しを受け、反トランプ派は大はしゃぎだが、はしゃぎすぎて判断力の集団喪失を招いてしまったようにも見える。

軽い罪状ならトランプの思うつぼ

 そこで、以下ではトランプと法律との関係を別の角度から見てみたい。

 もしトランプが何の容疑で起訴されるかを自分で選べたとしたら、恐らく軽微なものでの起訴を選ぶだろう。

 例えば、かつて関係を持ったポルノ女優に支払った口止め料の会計処理で不正を働いた、というようなことがそれに当たる。

 法令違反が疑われている行為(口止め料を経費で落としたこと)もその原因(ポルノ女優との不倫)も、トランプの支持者の間では問題にならない。

 そもそも、支持者はもっとひどい行為を大目に見ている。大半はトランプの鉄面皮を称賛している。

 起訴状の内容が軽ければ軽いほど、トランプの目的にかなう。

「ディープ・ステート(国家内国家)」のために働くイデオロギー色の強い検察官たちが、2024年に向けたトランプの選挙運動を頓挫させる決意でいるという、MAGA(米国を再び偉大に)の陰謀論が強固になるからだ。

 自分が逮捕されたら大規模な抗議行動が起こるというトランプのホラ話を信じなくても、彼がその種の展開を好むことは理解できるはずだ。

 抗議デモも行われそうにない。