戦争は終わりを迎えつつあるという

 開戦から1年を超えたウクライナ戦争に終末が近づいている兆候がみられる。ウクライナが敗北する可能性が高まっている。

 その背景を探ると共に今後の推移と影響を分析する。

陥落寸前のバフムート

 かつては人口7万人の都市で東部ドンバスの交通網の中枢でもあったバフムートは、2014年以降、NATO(北大西洋条約機構)の支援も受けながら全都市の要塞化を進めてきた。

 市内にはコンクリートの堅固な要塞陣地が築かれ、大量の武器・弾薬が備蓄され、要所には戦車、各種の対戦車・対空ミサイルが掩体内に配備され、陣地帯の周囲には何重もの地雷原や対戦車障害などが設けられていた。

 ロシア軍(以下、露軍)は開戦3カ月後の2022年5月から攻撃を開始し、以来約9カ月に及ぶ攻防戦がバフムートでは続いてきた。

 露軍は、ウクライナ軍(以下、宇軍)の対空・対戦車ミサイル、ロケット砲などの射程外から、長射程のスタンドオフミサイルやロケット砲・火砲などにより、徹底的にまず宇軍の陣地を破壊し、必要とあれば地域を犠牲にし占領地域を縮小してでも、宇軍の兵員と装備を損耗させるという「消耗戦略」を採用している。

 消耗戦略を支えたのは、無人機、衛星画像、レーダ評定、戦場の偵察兵の報告などの多様な情報・警戒監視・偵察(ISR)システムによるリアルタイムの目標情報と、それにリンクした司令部の指揮統制・情報処理・意思決定システムによる攻撃兵器への目標配分・攻撃命令、それを受けた陸海空各軍種と新領域を横断する、統合レベルの総合火力システムによる、目標への射撃という、一連のサイクルである。

 このようなISR・指揮統制機能・領域横断的な火力からなるサイクルは、濃密な対空ミサイル網、航空優勢により掩護され、その掩護下から各種の精度の高い長射程火力の集中射撃が宇軍の目標に対してなされた。

 ダグラス・マグレガー米陸軍退役大佐(ドナルド・トランプ政権当時の米国防省顧問)は、このような陸海空の発射母体から発射される対地ミサイル、地上配備のロケット砲・火砲よる損害は、兵員損耗の約75%にも上ったと見積もっている。

 堅固な塹壕陣地に対し大量集中火力が浴びせられ、大量の損耗が生じた、第1次大戦中の「肉引き機」と呼ばれたベルダンの戦いに類似した、それ以上の熾烈な消耗戦が、バフムートの戦場で繰り広げられてきた。

 今そのバフムートで露軍は完全包囲まであと2.8キロに迫っている(February 25, 2023 as of February 25, 2023)。

 バフムートの宇軍は包囲を避けるため離脱中だが、まだ一部の宇軍は市街地に立てこもり抵抗を続けている。

 宇軍の残存部隊等に対し露軍は、各種のミサイルや火砲、装甲戦闘車搭載砲などにより集中射撃を行い、宇軍陣地の建物群などを制圧している。

 露軍の戦車等は、前進経路上の敵目標を制圧しながらさらに前進を続けている(Hindustan Times, February 13 & February 22, 2023 as of February 26, 2023)。

 露軍は宇軍の抵抗が弱まったことから、機動戦に力点を移しているとみられ、進撃速度は1日に1~2キロに上がり、離脱した宇軍を追撃し前進を続けている。

 被包囲下の宇軍兵士は、補給も途絶え組織的戦闘が困難になっていると訴えている。

 宇軍はバフムート南北の現陣地帯とスラビャンシク~カラマトルシクの陣地帯の間の河川の線で防御立て直しを図っているが、配備兵力が不足し、露軍の阻止は困難とみられている(HistoryLegends、2023年2月11日 as of February 27, 2023)。