(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年2月22日付)

イスラエルの政治が危機に陥っている。
右派政権の「司法改革」が幅広い層から批判を浴び、おびただしい数の人々が街頭デモに繰り出して反対を叫んでいる。
イツハク・ヘルツォグ大統領は「もはや政治の議論になっておらず、憲政や社会が崩壊する瀬戸際に立たされている」とまで言い切っている。
現政権のプログラムがこの国の将来にとって重要であることは明らかだ。だが、もっと広い意味でも重要だ。
一つには、この地域におけるイスラエルの役割のためだ。
また、イスラエルで起きていることは、民主主義国が乱暴な多数決主義を介して独裁国家に変質しうるプロセスについて疑問を投げかけるためでもある。
自由民主主義の4つの要素
米スタンフォード大学のラリー・ダイアモンド氏によれば、自由民主主義には、単独では必要条件となり、すべてがそろうと十分条件になる4つの要素がある。
自由かつ公正な選挙、市民生活への一般市民の積極的な参加、すべての市民の公民権および人権の保護、最も強い力を持つ市民を含むすべての市民を拘束かつ保護する法の支配だ。
選挙で選ばれた人物であろうと、自由民主主義に不可欠なこれらの要素を一つたりとも脅かすことは許されない。
そのような国家を建設しようとする人物は、民主主義の転覆を目指していることになる。
つまり民主主義とは、制度的なチェック・アンド・バランスの制約を受ける多数決支配のシステムだ。そうした制約のうち、何よりも重要なのが法の支配だ。
欧州連合(EU)がハンガリーやポーランドの「非自由民主主義」に苦慮しているのはそのためだ。
イスラエル政府が提案している「司法改革」がこれほどまでに物議を醸しているのもそのためだ。