(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年2月16日号)

共和党は“トランプの罠”に嵌ってしまったようだ

 ある名言の表現を借りて言うなら、あちこちの墓地が「自分ならドナルド・トランプを倒せる」と考えた保守派政治家であふれている。

 共和党では、一方には元国連大使のニッキー・ヘイリーのように、反トランプからトランプ支持に転じた政治家がいる。

 大統領選挙への出馬を先日発表したヘイリーは、再びトランプに反旗を翻したことになる。

 他方には、前副大統領のマイク・ペンスのように暴徒をそそのかして自分をリンチしようとしたトランプをいまだに批判できない人もいる。政治的な死から蘇るのは容易ではない。

 米国は以前にも、このドラマを見た。

 共和党のエスタブリッシュメント(支配階層)は2015年、今日と同様に反トランプで概ねまとまっていた。

 大口献金を行う支援者は資金を待機させた。党内の大物たちは支持表明を見合わせた。参謀たちは、トランプを倒せる可能性が最も高い候補者は誰なのか思案した。

 マルコ・ルビオとテッド・クルーズの名前が挙がったが、決め手に欠けた。両者は今回、再出馬の意向を示していない。

 2人は以前、トランプは米国に有害な道徳的脅威をもたらすと批判した。逆に恥をかかされると、最終的にはトランプ人気に飛び乗った。

 恐らくヘイリーが思い知らされるように、MAGA(米国を再び偉大な国にする)をスローガンに掲げるトランプ支持基盤は、寝返った政治家を評価しない。

トランプと競える候補は誰?

 共和党が抱えるトランプ・ジレンマは深刻だ。

 トランプとつながっていた人物はほぼ全員、著しく力を弱めている。ヘイリーは出馬を宣言した動画のなかで「いじめられたら黙ってはいない」と公言している。

 しかし、トランプ政権に2年間忠実に仕えた人物だ。トランプを率直に批判することはできず、共和党には若い指導者が必要だと主張するのが関の山だ。

 ヘイリーによる中身のない立候補は、もっと分別があったのに大人しく従ってしまったことの報いだ。

 過去をなかったことにはできない。