(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年1月31日付)

軍事力を高めると使いたくなり、体を鍛えすぎると男らしさは腕力の強さだと勘違いしがちだ

 筆者はしばらく前から、安全な距離を置いて文化戦争をながめてきた。

 文化戦争にからむ問題は興味深いこともある。だが、たちが悪く、人のキャリアを終わらせる論争の性質のために、実際に議論に加わることはやめた。

 そのため自分の地政学的なレーンにとどまり、トランスジェンダーのトイレのような爆発的な題材を避け、ブレグジット(英国の欧州連合=EU=離脱)や核戦争といった比較的物議にならないトピックを取り上げてきた。

西側は悪魔崇拝?

 ところが今、不本意ながら、自分の安全空間である地政学が文化戦争と融合していると判断している。

 ウラジーミル・プーチンの演説を見るといい。

 ウクライナ侵攻を正当化するためにロシア大統領が挙げる理由は、安全保障や歴史だけに根差していない。

 プーチンはますます、ウクライナでの戦争を文化戦争の一環として描くようになっている。

 ロシアによるウクライナ4州併合を祝った昨年9月30日の演説では、プーチンは西側が「悪魔崇拝に向かっている」とか「子供に性的倒錯を教えている」と批判した。

 さらに「我々は子供たち、孫たちを、彼らの魂を変えようとするこの実験から守るために戦っている」と主張した。

プーチンのロシアに引かれる文化的保守

 こうした主張はロシア国民だけに向けられたものではなく、主にロシア人を目がけているわけでもない。

 プーチンは西側の重要な構成要素とも戯れている。自国社会の退廃とされるものを嫌悪するあまり、プーチンのロシアに引かれる文化的保守派だ。

 ウクライナでの戦争が勃発する直前に、ドナルド・トランプの首席戦略官を務めたスティーブ・バノンは自身のポッドキャスト番組で「プーチンはウォーク(woke、意識が高い系)じゃない。反ウォークだ」と語った。

 これに対し、インタビュー相手のエリック・プリンスは「ロシアの人たちはまだ、どちらのトイレを使うか分かっている」と返した。

(編集部注:エリック・プリンスは民間軍事会社ブラックウォーターの創業者で共和党エスタブリッシュメントと深い関係がある)