2019年に米モーゼスレイクで飛行試験拠点を公開した際のスペースジェット(写真:Aviation Wire/アフロ)

前回の記事「『塩漬け』にされた国産ジェット旅客機開発、三菱重工に欠けていた視点とは」では、「スペースジェット(旧MRJ)」を開発した三菱重工業が最大のライバルとなるブラジルの航空機メーカー、エンブラエルを過小評価していたのではないかと述べた。ブラジル製の航空機よりも日本製の航空機の方が優れていると多くの人が思っていたが、実はエンブラエルのルーツはドイツの航空機メーカー、ハインケルの技術者たちにあった。では、スペースジェットと、競合するエンブラエルとは性能や快適性でどこが違うのか。私自身の操縦経験を含めて具体的に解説したい。

前回から読む(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73684)

(杉江 弘:航空評論家、元日本航空機長)

高度、速度ともにエンブラエルに劣る

 私は日本航空(JAL)で長年「ボーイング747」に乗務した後、2008年秋からJALのグループ会社、ジェイエアで日本に初導入となる「エンブラエルE170」の訓練に入り、導入時から3年間、実乗務を体験した。その過程でわかったことを述べる。

 お断りしておくと、一般的にパイロットは自分が乗務する、あるいは乗務した航空機のことを良い飛行機だと言う傾向がある。理由の一つに、自身が厳しい訓練を経たこともあるだろう。以下で私は可能な限り客観的に評価することに努めたのをご理解いただきたい。

 ボーイング747やエンブラエルに乗務した経験から言えば、スペースジェットの最大巡航高度が3万9000フィート、速度がマッハ0.78に制限されていることに驚いた。

 というのも、パイロットは乱気流を避けるため、時に4万1000フィートまで高度を上げることも少なくないからだ。

 国内線や近距離国際線でも同様で、スペースジェットではそれができないとなると快適性でのハンディが生じる。エンブラエルは、他の航空機と同様、最大巡航高度は4万1000フィートである。