2030年に向けた新たな成長戦略を立案した中外製薬。その戦略実現のキードライバーの1つに「DX」を掲げている。DX推進について、同社の上席執行役員 デジタルトランスフォーメーションユニット長の志済聡子氏は「ビジョンに向けて取り組みを拡大すればするほど、さまざまなセキュリティリスクがついてくる」と話す。DX推進とセキュリティ対策の両輪をいかにして回していくべきか。同氏が、「組織運営」「人/文化」「技術」の3つの側面からの取り組みを解説する。

※本コンテンツは、2022年12月6日(火)に開催されたJBpress/JDIR主催「第2回サイバーセキュリティフォーラム」の特別講演「中外製薬のDXを支えるデジタル基盤とサイバーセキュリティ態勢の目指す姿」の内容を採録したものです。

世界を見据えた「トップイノベーター」を目指す

 国内のがん領域でトップクラスの売り上げシェアを誇り、国内初の抗体医薬を創製するなど、独自の創薬技術力を有する研究開発型製薬企業の中外製薬。スイスの製薬・ヘルスケア企業であるエフ・ホフマン・ラ・ロシュと戦略的アライアンスを結び、国内のみならず全世界へ医療品を届けている。

 同社はヘルスケア産業の「トップイノベーター像」の実現を目指し成長戦略「TOP I 2030」を策定。「世界中の患者さんが期待し、世界中の情熱ある人財を惹きつけ、世界のロールモデルになる」医療用医薬品メーカーを目指す。この成長戦略は「世界最高水準の創薬力の実現」と「先進的な事業基盤の構築」の2つを大きな柱とし、その実現に当たってキードライバーの1つとなるのがDXだという。中外製薬の上席執行役員でありデジタルトランスフォーメーションユニット長を務める志済聡子氏はDX推進について次のように語る。

「まずDXを進めるに当たっては、全社を挙げての取り組みが必要だと考え、当社では各本部・ユニットの部門長が集結し、月1回の会議でDXの実現に関してさまざまな意思決定を行う『デジタル戦略委員会』を設置しています。また、DXを推進する『デジタル戦略推進部』と従来の『ITソリューション部』の2つの部署を『デジタルトランスフォーメーションユニット』としてまとめることで、コンセンサスを取りやすい体制にしています」

デジタル基盤構築のための独自プログラム

 中外製薬は「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」というデジタル領域に特化したビジョンも策定した。「デジタル技術によってビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターになる」というビジョンで、その達成に向けて、「デジタルを活用した革新的な新薬創出」「全てのバリューチェーン効率化」、そしてそれを下支えする「デジタル基盤の強化」の3つの基本戦略を立案した。

 3つの基本戦略の内容を具体化すると、戦略実行を構成する要素には、DXが大きく関係していることが分かる。特に「デジタル基盤の強化」にどのように向き合っていくかが重要だ。「基盤」と一口にいってもさまざまある中、IT基盤の強化だけでなく、組織風土改革を目的とした環境づくりや人財育成にも力を入れている、と志済氏は説明する。