テレビアニメのオープニングアニメーションに登場する江ノ島電鉄・鎌倉高校前の踏切(写真:Quercus acuta, CC0, ウィキメディア・コモンズ)

(立花 志音:在韓ライター)

 今年も旧正月がやってきた。立花家の旧正月は平凡で、去年の夏に引っ越しした義父母の新築マンションに家族みんなが集合するだけだ。

 お年玉目当てにその日だけは早起きする長男。8歳の次男と5歳の末娘は、夫の弟夫婦が姪っ子を連れてソウルから遊びに来るのを心待ちにしている。

 昔の韓国は先祖の祭事をするために、親族が集まり、嫁たちが前日から山のように料理を作って準備をするものだった。今よりも大家族が多く、祭事の時は当然みんなが集まるため、嫁たちにはとてつもない負担だった。

 祭事が終わると夫婦げんかが起こるという話は常識で、妻の言い分よりも、伝統を重んじる両親の意見を重視する夫の方が多かった。それが韓国文化だった。

 夫の家は祭事をなくしてしまったので、筆者は韓国の伝統的な祭事を経験したことがない。家族が集まっても、料理は義母がプロ級の腕前で、外国人の筆者が台所に入り込む隙間はなく後片付け専門だった。

 旧正月とチュソクと呼ばれる旧暦の中秋が来るたびに、義実家に行きたくないとぼやくご近所の奥様たちを横目に、そういう意味では苦労知らずの韓国ライフを過ごしていた。

 15年ほど前からだろうか、嫁たちが祭事の時期になると仮病を使うとか、偽物のギプスをして本家に行くとか、義実家に帰省することを拒否しようとする女性が増えてきた。偽物のギプスなんて嘘みたいな話であるが、5年ほど前に実際に新聞やニュースで取り上げられていた。

 コロナ騒動の時、韓国政府は旧正月とチュソクには5人以上集まるなというお達しを出した。その2年の間で韓国社会も大きく変化して、親族が集まるという習慣が崩れた。最近は家族団らんよりお金が第一になり、働く母親が圧倒的に多くなったので、仕事を理由に帰省しないという話も多く聞く。

 しかし、今年の旧正月に筆者が見たものは、北海道から沖縄まで日本に詰めかける韓国人の姿だった。これは一体何なのだろうか。