国産のジェット旅客機開発という日本の悲願が叶うと期待された三菱スペースジェットだったが・・・(写真:Aviation Wire/アフロ)

ドイツがウクライナに強力な戦車「レオパルト2」を供与することを決めた。第2次世界大戦での敗戦国がどうして最強といわれる戦車をつくれたのか? 航空機でも似たようなことがいえるのだ。開発が凍結された三菱重工業のジェット旅客機「スペースジェット」のライバルと目されたブラジルのエンブラエル機が、実質ドイツ製としてスタートしたことはあまり知られていない。ドイツはかつてメッサーシュミットやハインケルなどの軍用機でのノウハウを持ち、それは民間ジェット機の製造にも活かされている。スペースジェットの開発頓挫の要因とエンブラエル機が高い評価を得ている理由を考えてみたい。

(杉江 弘:航空評論家、元日本航空機長)

「一旦立ち止まる」からすでに2年以上が経過

 三菱重工業が国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧名はMRJ=ミツビシ・リージョナル・ジェット)」の開発凍結を表明して2年以上の月日が過ぎた。

 2020年10月30日に「一旦立ち止まる」と表明し、型式証明の取得に必要な文書作成は続けるとしながらも、飛行試験は中断となり、訓練所は閉鎖されている。米国での試験を行っていた飛行試験機4機のうち3号機は解体されている。

 誰がどう考えてもこのプロジェクトの破綻は明らかだ。プライドが高い三菱重工業として失敗を認めたくない気持ちがあるのだろうが、国からも多額の税金が投入されてきた以上、曖昧で中途半端な説明を繰り返すのではなく、ここは早期に「失敗」の総括を行ったうえで、再起を期した方が良いのではないか。

 同社が昨年11月1日に発表した2022年4〜9月期決算では、スペースジェットの「開発減速」について決算短信にこう記している。

「当社は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響を受けた民間航空機市場の不安定化等を踏まえ、SpaceJetの開発活動を減速することを2020年10月に公表した」
「これによりSpaceJetの量産初号機の引き渡し予定時期を見通すことは困難となり、これを受けた顧客等との協議の結果等により追加の負担が発生し、将来の財政状態及び経営成績に影響が生じる可能性がある」

 こんな悠長なことを言っている場合なのだろうか。