(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年1月12日付)

米国と世界の貿易に関するナラティブ(物語)は、欧州や日本といった米国の同盟国の不満分子によって定められ、中国のような競合国によって増幅されている。
流れは次のようなものだ。
米国は市場を歪める補助金で世界経済をひっくり返し、世界貿易機関(WTO)の地位を下げ、自国企業に恩恵を与えながらアグレッシブな外交政策を追求するために輸出規制を使う意思がある国際的なルール違反常習犯だ――。
国際貿易の構造を支える岩
こうした説は過熱気味だとしても正当な批判だが、根本的な反論材料がある。
貿易を戦略的なツールとして使う各国政府の能力はまだ証明されていないが、貿易に必要な平和を担保するためには時折、あからさまな軍事力が必要になることは実証されている。
グローバル化のこの側面においては、米国はいまだに大きな岩で、国際貿易の上部構造の大部分がその上に成り立っている。
ウラジーミル・プーチンのウクライナ侵攻前の10年間は、ハードパワーがソフトパワーの条件を整える必要性を浮き彫りにした。
ますます好戦的になるモスクワの独裁者と向き合い、欧州連合(EU)は本当に知っている唯一の方法、つまり経済統合を通してウクライナを欧州の勢力圏へ引っ張り込もうとし、EUとウクライナ政府は2014年に「深化した包括的自由貿易協定(DCFTA)」に調印した。
その後、ロシアがクリミア半島を併合した後でさえ、2020年に打ち出されたEUの「戦略的自律」政策は主に、貿易、規制、価値観を通した影響力の行使に依存していた。
ロシアからの継続的な脅威について中・東欧諸国から出る警告はおおむね無視された。