(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年1月14・15日付)

民主主義国家の中にも独裁を好む人が少なからずいることは悩ましい事実だ

 米国共和党で連邦議会下院議長の選出をめぐる内輪もめが4日間続いた際、経歴を詐称して当選した新人のジョージ・サントス議員ほど巧みな嘘つきでさえ、「こんなデタラメな話、誰にも思いつかない」とぼやいたそうだ。

 米下院での一件は、西側各国の右派政党で起きていることが劇的に表面化しただけのことだ。

 右派政党は今、互いに対立する2つの右派に分裂している。

 大半の国では主流派の右派と極右が対立し、米国では極右と著しい極右とが対立しているが、いずれにせよ至る所で右派連合が崩壊しつつある。

 西欧の主要5カ国、中南米の主要7カ国、それに米国、カナダ、オーストラリアの計15カ国のうち、従来型の中道右派が政権を担っているのは英国だけで、その英国でも与党・保守党が来年の選挙での大敗を覚悟している。

 社会民主主義政党は死んだと盛んに報道されているにもかかわらず、今では中道左派が勢力を伸ばしている。

ブレグジットとトランプ大統領を生んだ連合

 保守と極右の連合を取り上げた戯曲に、スイスの劇作家マックス・フリッシュが1953年に著した『ビーダーマンと放火魔たち』がある。

 ビーダーマンは養毛剤の製造で財をなした誠実な実業家で、ある日、大切な自宅に2人の放火魔を泊めてしまう。

 案の定、自宅は火をつけられて焼け落ちる。

 この話は、自分たちなら極右をコントロールできると保守派が信じ込むとどうなるかを描いたヒトラー後の世界のメタファーだ。

 現代の放火魔は議会、司法、企業といった機関を攻撃する。

 投票をやめさせようとし、文化戦争を戦い、ウラジーミル・プーチン大統領と戯れ、何かあれば「フェイクニュース」だと騒ぎ、ブレグジット(英国の欧州連合=EU=離脱)のような放火計画を推進する。

「保守」にはほど遠い存在だ。

 それでも、放火魔たちが初めて姿を現したとき、ビーダーマンに象徴される保守派は彼らを家に招き入れた。

 そして米国と英国の右派は大きな過ちを犯した。