初の特定秘密漏洩事件を年の瀬に発表した防衛省。コトの重大さに気づくその秘密の中身とは(写真:アフロ)

(谷田邦一:ジャーナリスト、「未来工学研究所」シニア研究員)

 何とも後味の悪い事件である。

 安全保障に関する情報のうち、特に秘匿が必要とされる特定秘密などを漏洩(ろうえい)したとして、海上自衛隊の1等海佐が書類送検された。

「畏怖(いふ)」を抱かせるかつての上司に頼まれたとはいえ、海自の情報部門トップだった幹部がいとも易々と最高機密を漏らしたのはなぜか。漏洩を受けた元海将は、なぜ責任を問われずにすんだのか。そこには一連の報道では明らかになっていない、現職とOBをつなぐ深い闇が潜む。

 事件をよく知る関係者の証言を織り交ぜながら掘り下げてみた。

舞台は横須賀のビルの一室

「伏せている所を教えてくれないか、と聞くだけで教唆になる」とされた安全保障の最高機密、特定秘密。8年前に法律が施行されて以来、よもやこんな形で外部に漏出するとは誰が予想したであろうか。

 舞台は、自衛艦隊司令部(神奈川県横須賀市)などの海自中枢機能が建ち並ぶ一角にあるビルの一室。海自で唯一の情報専門部隊である情報業務群(現・艦隊情報群)のトップが主人公だ。この部隊の役割は、作戦情報を分析したり評価したりして全部隊に提供することにある。

 その責任者だった同群司令の井上高志・元1佐(54)=懲戒免職=は2020年1月ごろ、かつての上司で自衛艦隊司令官(海将)を務めたOBに、1対1で安全保障情勢に関するブリーフを行った。その際、特定秘密のほか自衛隊の運用状況、自衛隊訓練に関する情報などを故意に伝えたとされる。

 内部通報があって発覚し、自衛隊内の警察組織である警務隊が取り調べたところ、井上1佐は漏洩容疑を認めたという。

 防衛省の発表によると、OBへのブリーフそのものは井上元1佐だけでなく、その上司2人も承知していたという。元1佐は「上司からの業務命令」と受け止め、「できる限り、(OBの)興味関心を得たいと考えた」。かつては上司と部下の関係だった相手に「強い畏怖の念」も感じていたという。

 同じ職場での仲間意識が、機密に対する意識のハードルを下げたともいえよう。昨年12月に記者会見した酒井良・海上幕僚長は「OBへの行き過ぎたサービスや、規範精神を乗り越えたOBへの対応があった」と現職勢のモラルの低さを厳しく戒めた。