9月13日、ロシア軍はハルキウ州から撤退した(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、いわゆるウクライナ戦争は11月24日で9か月となった。いまだ、ウクライナ戦争の終結に向けての和平交渉再開への道筋が見えてこない。

 これまで4回の対面での交渉と1回のオンラインでの交渉が行われた。最後の第5回目の交渉は、3月29日、トルコの仲介によりイスタンブールで開催された。

 その時は、ウクライナの「中立化」(NATO=北大西洋条約機構・非加盟)、ウクライナの「武装解除」、クリミア半島並びに「ドネツク人民共和国」および「ルガンスク人民共和国」の地位問題などの6項目が話し合われ、合意に近づいた項目もあった模様である。

 しかし、それ以降、交渉は行われていない。

 2月の侵攻開始当初、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はウラジーミル・プーチン大統領に対話を求めていた。

 だが、ブチャの虐殺は、和平交渉にとって大きな転換点となった。

 ゼレンスキー氏は、4月4日、多数の民間人が犠牲となった首都キーウ近郊のブチャを訪れ、「ロシア軍がウクライナでした残虐行為の規模を見るとロシアとの和平交渉は非常に難しくなった」と語った。

 筆者は、この時にゼレンスキー氏は、戦争に勝利し、プーチン氏を戦争犯罪の罪で必ず処罰しようと決意したのだと見ている。

 これ以降、和平交渉機運は急速に萎み、交渉は一度も開催されていない。

 今、ウクライナ軍は、東・南部の戦場で、多くの犠牲を払いながら、ロシア軍との厳しい戦闘を繰り広げている。

 ゼレンスキ―氏およびウクライナ国民の徹底抗戦の意志を支えているのは、ウクライナ領土からロシア軍を排除し、優位に和平交渉を進め、なんとしてもプーチン氏を戦争犯罪の罪で処罰したという強い願いであろう。

 ところが、今、欧米諸国からウクライナに対してロシアとの早期和平を求める声が大きくなっている。

 その理由の一つは、欧米各国の「ウクライナ支援疲れ」である。

 侵攻当初と比べウクライナへの関心は薄まり、並行して進むエネルギー価格の高騰への不満が高まっている。世論の動き次第では、今後の支援態勢に影響が生じる恐れもある。

 もう一つの理由は、ジョー・バイデン米大統領の「アルマゲドン発言」が、米国民の間に引き起こした「核戦争の恐怖」である。

 そこで、バイデン政権は、米国民の恐怖を和らげるために、ウクライナに対し和平交渉を促している。

 ところで、今後の戦況の見通しであるが、泥濘期が終わり、地面が凍結し戦車など機動性が高まる厳冬期に入り、戦闘が激化するという予測がなされている。

 現在、ウクライナ軍は、東・南部の戦いを優位に進めている。その勢いでクリミア半島の奪還までも狙っている。

 ウクライナは、厳しい冬の到来を反撃のチャンスとして捉えていると見られる。

 ハウリロウ国防次官(退役少将)は、英ロンドンを訪問中の11月19日、英民放ニュースのインタビューに応じ、ウクライナ軍がクリスマスまでにクリミア半島に進撃し、来春には戦争を終わらせることができると主張した。

 一方、ロシア軍は、現在は、反転攻勢を強めるウクライナ軍に対して苦戦を強いられているが、これら来る厳冬期の間に兵員の増員を進め、軍を再配置し、来春に攻勢に移ると見られていた。

 ところが、ウクライナ軍の動向を察知したロシア軍は、部隊の再編成を急ぎ、数週間以内に東部で攻勢に出るとの見方が出てきた。

 以上のことから、これから来る厳冬期の間に、ウクライナの東・南部の戦場で、ウクライナ戦争の帰趨を決する一大決戦が繰り広げられかもしれない。

 ウクライナ戦争をウクライナの勝利で早期に終結させるためには、西側諸国はウクライナが要望する最新兵器を十分に供与しなければならない。

 西側の十分な軍事的支援を受けたウクライナ軍が東・南部の戦場でロシア軍に勝利した時に、そこから新たな和平交渉が再開するであろう。

 さて、本稿では、これまでの停戦・和平交渉の経緯を振り返り、新たな和平交渉再開後の見通しを予測してみたい。