(英フィナンシャル・タイムズ紙 2022年10月26日付)

英国のリシ・スナク新首相(10月28日撮影、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 同じ世代のアジア系英国人として、リシ・スナク氏がダウニング街10番地(首相官邸)に入っていくのを見ると、筆者は落ち着かない気持ちになる。

 もっとも、羨ましいとか苦々しいといった気持ちは、やがて消える。

 そこで浮かんでくるのが、ナポレオン時代以降で英国史上最年少となる新首相に何を期待するべきか、という疑問だ。

 政権が有能さを取り戻すことへの期待が大きいが、そんなことを期待すべきではない。

 確かにスナク氏は、財政赤字と経常赤字が生じているこの時期に財源なき減税を行うことの愚かさを認識していた。だが、それは一般的な英知の証拠ではない。

 何と言ってもスナク氏は、パンデミックのさなか、それもワクチン接種のメドもまだ立っていない時期に外食するよう国民に補助金を出したその人なのだ。

EU離脱が名案だと本気で考えた初の英首相

 スナク氏は実際、短いキャリアに多くの判断ミスを詰め込んだ。

 ブレグジット(英国の欧州連合=EU=離脱)の是非を問う2016年の国民投票以降の首相のうち、2人(テリーザ・メイ、リズ・トラス両氏)はEU残留に賛意を表し、1人(ボリス・ジョンソン氏)は日和見主義者らしく少し遅れて離脱支持を表明した。

 つまり今回、英国は史上初めて、ブレグジットは名案だと本気で考えた人物によって統治されることになる。

 EU離脱で貿易が減ることから、EUから返還されるはずの資金が消えることまで、スナク氏は諸々のコストを予想できなかったか、その穴を埋める手段が簡単に見つかると高をくくっていた。

 昔が懐かしかったのだという言い訳さえできない。

 ブレグジットについてはぶれることのない伝統主義的な賛成論があったし、今日でも存在する。片や自由主義や自由市場を支持する立場からの賛成論は存在しない。

 現代的で、経済成長も肯定する感受性の持ち主であるスナク氏がなぜブレグジットに賛成したのか。これは単なる学問上のナゾにとどまらない。

 行政府のトップとして、ほかにどんな奇妙な選択を下すか問わざるを得なくなる。