自動車メーカーが自動車業界最高峰の技術力をかけて戦う自動車レースといえば、「F1」とルマンで知られる「WEC」。しかしWECの最高峰カテゴリーは、2017年にポルシェが撤退を表明して以降、やや寂しい状況が続いていた。2018年にレギュレーション改正の検討をスタート。各種変更が導入された現在、これまで参戦を続けていたトヨタに加えて、プジョー、ポルシェ、キャデラック、BMW、アルピーヌ、ランボルギーニと参戦を表明するメーカーが増え、WECに活況が戻りつつある。そして、最高峰カテゴリーとなった「ハイパーカー」(LMH)クラスには、2023年から、ついにあのフェラーリが参戦。参戦マシンとして『499P』をお披露目した。この『499P』を大谷達也が速報&解説!

フェラーリ『499P』
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なぜ?50年ぶりにフェラーリのルマン参戦

 総合優勝を目指して2023年のルマン24時間に挑むフェラーリの新たなレーシングカーが発表された。

 フィナーリ・モンディアーリ開催中のイモラ・サーキットで公開された『499P』は、ルマン24時間を含む世界耐久選手権(WEC)の最高峰カテゴリーである「ハイパーカー(LMH)クラス」を戦うためのマシン。ちなみに、フェラーリがルマンの最高峰カテゴリーに挑むのは、1973年以来、実に50年振りのこととなる。

 半世紀の歳月を経て、フェラーリが総合優勝を賭けてルマンに参戦することを決めたのは、このLMHクラスが設定されたことと深い関係がある。

 歴史的に見て、ルマン24時間はプロトタイプカテゴリーを重んじてきたレースといえる。事実、2020年までは、その名も「ルマン・プロトタイプカー1(LMP1)」が最高峰カテゴリーとして設定されていた。しかし、ここに参戦する自動車メーカーが徐々に減少。最終的には実質的にトヨタのみとなったことが、LMHクラスの新設に大きく影響したと見られている。

スーパーカーを超えるハイパーカー

 LMHクラスは、プロトタイプカーとロードカーの中間的な存在のカテゴリーといえる。ハイパーカーとは、元をただせばスーパーカーを越える性能を持つロードカーのことで、LMHクラスも、もともとはロードカーをベースに開発されたレーシングカーを対象としていた。しかし、参戦の間口をより広げるために、「一定の要件」を満たせば純レーシングカーもエントリーできるように軌道修正。こうして誕生したカテゴリーが、現在のLMHクラスといって間違いない。

 ここでいう「一定の要件」にはエアロダイナミクス(空気力学)に関わる規則も含まれている。一般的にいって、空気力学的な性能を突き詰めていくと、居住スペースなどを重視した市販車とは似ても似つかないボディ形状になっていく。そこでLMHクラスでは、空気力学的な性能目標値を敢えて低めに設定。こうすることで、いかにもレーシングカー的なスタイリングだけでなく、ロードカーと似たデザインに仕上げる余地を生み出したのである。

「フェラーリが最高峰カテゴリーへの復帰を決めたのは、ルールが変わったからです」 フェラーリのルマン・プロジェクトでリーダーを務めるアントネッロ・コレッタはそう語る。

「私たちにとって、スタイリングは極めて重要です。つまり、このクルマを見たとき、人々がすぐに『あ、フェラーリだ!』と気づくことが必要だったのです」

296GTBにも通じるデザインやエンジン

 事実、499Pのフロントノーズ周りは、最新の『296GTB/GTS』とよく似ている。

 また、エンジンは296GTB/GTS用をベースとした3.0リッターV6を使用するなど、499Pとロードカーの結びつきは極めて深い。ちなみに、499Pのモデル名は「エンジンの1気筒あたりの排気量が499cc(6気筒で2994cc)のプロトタイプカー」を意味するもので、フェラーリの伝統的なネーミングとなっている」

 伝統的といえば、来年のルマン24時間に参戦する499PのカーナンバーはNo.50とNo.51になる予定。このうちNo.51は、ルマン24時間に挑むフェラーリがもっとも多くの勝利を獲得してきたカーナンバーのひとつという。

自動車メーカー頂上決戦がルマンに帰ってくる!

 2023年のルマン24時間では、ポルシェも「LMDhクラス」(もともとアメリカのIMSA向けに制定された車両レギュレーションで、ワンメイクの要素が強く、LMHよりも低いコストで参戦可能とされている)からエントリーして総合優勝を目指すとされる。さらに2024年からはランボルギーニ、BMW、アルピーヌなどが参戦。ルマンに数多くの自動車メーカーが久しぶりに戻ってくる展開になると期待されている。

「2023年にも多くのコンペティターが参戦しますが、2024年にはさらにその数が増えます」とコレッタ。「来年は多くのメーカーが信頼性に苦しむことになるかもしれませんが、私たちは2023年に向けて準備を進めています。ここで、(勢力図に関する)いろいろなことが明らかになるでしょう」

 ちなみに、フェラーリがルマンで総合優勝を飾ったのは1965年の250LMが最後。それ以来の栄冠を勝ち取ることはできるのか? まずは、アメリカ・セブリングで開催される2023年WEC開幕戦が、ひとつの試金石となるだろう。