化石燃料からクリーンエネルギーへの移行を目指す岸田政権だが、やり方を間違えると国際競争で劣後するだけに終わる(写真:代表撮影/AP/アフロ)

2050年に温暖化ガス排出実質ゼロを目指す政府は、「脱炭素」技術の開発を促すため「GX経済移行債」なるものを発行する計画を掲げている。だが、狙い通りの成果が上がるとは到底思えない。非現実的な妄想に囚われては、日本の将来に大きな禍根を残すことになる。

(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

20兆円もの「GX経済移行債」発行を計画

「脱炭素」技術のイノベーションを促し、「経済成長と環境対策を両立させる」ための原資として、政府は国債として「GX経済移行債」(通称、環境債。GXとはグリーントランスフォーメーションの意)を20兆円発行し、将来は環境税や排出量取引などの「カーボンプライシング」で償還するとしている。

参考:政府のGX実行会議ホームページhttps://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/index.html

 この背景となる思想が典型的にまとめてある記事があったので紹介しよう。

日本経済新聞電子版(2022年9月15日)
[社説]脱炭素への移行に資金の好循環確立を
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1557C0V10C22A9000000/

“脱炭素社会を実現するためには、クリーンエネルギーを使った発電を増やすだけでなく、製鉄など二酸化炭素(CO2)を多く出す産業の排出抑制がどうしても必要だ。多額の資金も投じなければならない。国や企業、個人のお金を脱炭素社会への移行に回す仕組みを整えたい。

政府の見通しでは、2050年に温暖化ガス排出実質ゼロを目指すうえで、今後10年間で官民あわせて150兆円の投資が必要となる。再生可能エネルギーの普及や蓄電池の開発などを成長戦略と位置づけ、有効なお金の使い方を検討する必要がある。

採算が不透明で民間が負いにくい投資のリスクは、まずは国が引き受け、民間資金の呼び水としての役割を果たすべきだ。新たな国債の発行も選択肢のひとつとなる。償還財源を確保するためにも、CO2に値付けするカーボンプライシングの議論に早く結論を出し、実行してほしい。”

(以下略)

 どうもこの論者は、「環境債発行→イノベーション→経済成長と環境対策の両立」という政府の図式を本気で信じているらしい。

 だがそんなに上手くいくのだろうか? 実際に起きることは何か?