名品は時間を掛け積み重ねられた伝統の力が生み出すもの。そして物作りの情熱は、やがて過去の名品さえも進化させていく。ブランドを象徴するロングセラーと、ヘリテージを紡ぎながら誕生したニューデザイン。その二つを知ることで、ブランドの持つ本質と革新性が見えてくる。

写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川 剛(TRS) 編集/名知正登

英国靴の頂点、ジョンロブの歴史

 紳士靴の原点と言われる英国のドレスシューズ。なかでもジョンロブは、そんな伝統的な英国靴の頂点を極めた老舗である。その物語は19世紀中盤、若き靴職人見習いであったジョン・ロブが起点となる。

 故郷である英国の地方からロンドンを目指して立身し、さらにゴールドラッシュに湧くオーストラリアへと単身渡ったジョン・ロブ。労働者用ブーツ作りを足がかりに、その地で靴作りのノウハウを確立したという。

 1863年にロンドンに戻り自身の工房を構えると、培った高い技術から多くの顧客を集め、やがて英国王室御用達を任命されるほどに成長。1866年にはリージェントストリートに初のビスポークショップを開き、その後は世界的なシューズメーカーとして発展するのである。

 海外にもその名はとどろき、パリに一号店をオープンさせるのは1899年。製靴における職人技は比類ないものであり、同じく皮革製造業として世界に君臨するエルメスの目に留まり、1976年に傘下として加わることとなる。以来ジョンロブは最高級の既成コレクションを展開し、紳士靴の名門として不動の地位を築き上げることとなる。