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(文:久我尚子)

アルコールは飲めるが「あえて飲まない」「飲むのをやめた」人たちの存在に注目が集まっている。「ソバーキュリアス」と呼ばれるこの新たなライフスタイルや、コロナ禍の家飲みで選ばれるようになった酒類など、日本人の飲酒生活のトレンドを探る。

男性の「飲酒習慣率」が大幅低下

「ソバーキュリアス」という言葉をご存じだろうか。自分の身体や心の健康を考えて、あえてアルコールを飲まない、あるいは、飲むとしても少量だけを楽しむライフスタイルのことで、数年前から欧米の若者を中心に広がっている。日本国内では2021年に刊行された『飲まない生き方 ソバーキュリアス Sober Curious』(ルビー・ウォリントン著、永井 二菜翻訳、方丈社、欧米では2018年に出版)が話題を呼んでいる。

 日本でも「若者のアルコール離れ」が言われて久しいが、あらためて日本人の飲酒の状況を統計データで確認したい。厚生労働省「国民健康・栄養調査」では、週に3日以上、飲酒日1日当たり1合以上飲酒する者を飲酒習慣がある者と定義し、長年、飲酒習慣率を捉えている。この飲酒習慣率について、1999年と2019年を比べると、20代や30代では男女とも低下しており、確かに若者のアルコール離れが進んでいる(図1)。ただし、男性では全ての年代で飲酒習慣率は低下しており、アルコール離れは中高年でも進んでいる。この背景には、景気低迷で会食の機会などが減ったこと、また、2008年から、40歳~74歳を対象に、いわゆるメタボ健診(特定健康診査・特定保健指導)が始まり、健康志向が高まった影響などがあるのだろう。


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 一方、女性では、飲酒習慣率は多い年代でも1割台で男性と比べて格段に低いとはいえ、20年前と比べて40~60代で上昇していることが興味深い。その結果、2019年では、40~50代の女性の飲酒習慣率は20代の男性をやや上回るようになっている。今の40~50代の女性は働く人が増えてきた世代であり、男性と同様に会食の機会などが増えたこと、また、ひと昔前と比べてアルコールを楽しむ女性に対して世間の見方が和らいだこと、それらに伴って、女性が立ち寄りやすい飲食店や女性が手に取りやすい発泡酒などの商品開発も進んだ影響などがあるのだろう。

 とはいえ、若者や男性では全体的に飲酒習慣率が低下することで、あえてアルコールを飲まないソバーキュリアスの存在感は増している。

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