(英フィナンシャル・タイムズ紙 2022年8月24日付)

ガス価格の高騰を政治利用する人には要注意だ

 歴代のアカデミー賞で筆者が特に気に入っている受賞スピーチの一つは、イングリッド・バーグマンのスピーチだ。

 1944年に女優賞を受賞した際、審査員たちに感謝し、「将来、賞にふさわしい女優になりたい」と静かに語った。

 バーグマンのオスカー像は、妻の心を操り、気が狂いつつあると思い込ませる夫を描く心理サスペンス映画「ガス橙」の主演女優として与えられたものだった。

 この映画は我々に「ガスライティング」という言葉も与えた。

 誰かの自信を少しずつ崩し、現実を疑うよう仕向ける策略を描写するために今日盛んに使われる流行語だ。

 欧州全土の国が悲惨なエネルギー危機を抑制しようと悪戦苦闘するなか、これがどれほどピッタリな言葉になるかは誰も予想できなかった。

輸入化石燃料に依存する危険

 ガスは間違いなく、この問題の中心を占めている。

 新型コロナウイルスのパンデミック後の景気回復が需要をあおり、世界最大の天然ガス輸出国であるロシアがウクライナを支援する国々への供給を絞るにつれ、ガス価格は通常レベルの10倍超に高騰した。

 夏の記録的な熱波によって電力使用が過熱状態になり、冬が近づいてきた今、各国政府は急騰する電力・暖房費、停電、企業の破綻、景気後退の脅威に直面している。

 輸入化石燃料に依存する危険を考えた時、これ以上苛酷な例はなかなか思い浮かばない。

 エネルギー使用を効率化し、国内のグリーンな発電所を推進する「ネットゼロ」政策を急ぐよう求める声は何年も前から上がっていた。

 閣僚たちがこの助言を聞き入れるべきだったことは、いまだかつてないほど明白だ。

 中道右派のシンクタンク「オンワード」は、再生可能エネルギー発電は昨年、英国だけで約60億ポンド相当のガスを節約したと試算している。