(英フィナンシャル・タイムズ紙 2022年8月24日付)

2期目のトランプ政権――世界の民主主義国家における悪夢以外の何物でもない

 米国は8月半ば、独裁制に向かう旅で、また一歩前進した。

 リズ・チェイニーが地元ワイオミング州の選挙区での共和党予備選挙で敗れたからだ。

 議員の父親はジョージ・W・ブッシュの下でイラク戦争を主導した元副大統領のディック・チェイニーだ。彼女もまた、疑う余地のない保守派だ。

 ところが、リズ・チェイニーは共和党支持者から忌み嫌われる存在になった。

 議員が犯した罪とは何か。共和党の「偉大な指導者」の嘘を広めることよりも、公正な選挙の結果を受け入れることの方が大きな責務だと考えているのだ。

1930年代のドイツと同じ指導者原理

 米共和党は1930年代のドイツの「フューラー・プリンツィプ(指導者原理)」を取り入れた。

 何が真実で何が正しいかは指導者が決定する、その指導者に忠誠を尽くすことがすべてに優先する義務であるという考え方のことだ。

 前回の大統領選挙に勝ったのは自分だというトランプの「大嘘」を米共和党支持者が受け入れていることは、この原理の完璧な事例だ。

 それだけではない。この例では、公正な選挙という自由民主主義の中核的価値と直接対立する。

 10年前なら大方の人は、米国でこんな展開になることはとても想像できないと思っただろう。だが、ドナルド・トランプが大統領になったことで、これが実現する可能性が高まった。

 そして今、選挙で敗北したことへのトランプの反応ではなく、むしろトランプの嘘に対する共和党の反応こそが決定的な局面をもたらす。

 ハーバード大学のスティーブン・レビツキーとダニエル・ジブラットが秀逸な著書『How Democracies Die(邦訳:民主主義の死に方)』で論じているように、民主主義国を転覆させることは難しくない。過去には何度もあったし、最近でも例がある。