8月9日、クリミアのロシア空軍基地で起きた爆発の様子(写真:ロイター/アフロ)

(在ロンドン国際ジャーナリスト・木村正人)

[ロンドン発]ロシアが占領するクリミアの露空軍基地で9日、15回以上の爆発が起き、少なくとも6人が死傷したと、英大衆紙デーリー・メールが報じた。

 爆発の原因はまだ明らかにされていないが、ウクライナ側は関与を否定、ロシア政府は攻撃によるものではなく保管していた弾薬が爆発したため、と説明している。だが交戦中の両国だけに、どちらの説明も事実とは限らない。ウクライナ軍による攻撃の結果だとすれば、爆発のあった基地が前線から最短で200キロメートル以上も離れていることを考えると、米M142高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」から地対地ミサイル「MGM-140 ATACMS(最大射程300キロメートル)」が発射された可能性も考えられる。

「これはほんの始まりにすぎない」

 同紙によると、少なくとも1人が死亡、子供1人を含む5人が負傷した。空軍基地にはロシア空軍のスホイ30など戦闘機や輸送機が配備されている。ウクライナ内務省の元顧問ビクトル・アンドルーシブ氏はテレグラムに「射程200~300キロメートルのミサイルはすでにわが国に配備され、使用されている。今日クリミアで起きた爆発はその証拠だ」と投稿した。

 アンドルーシブ氏のこの発言を事実と考えるならば、まず思い浮かべなければならないのは、前述のアメリカ陸軍の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」だろう。

 ATACMSはHIMARSで発射可能な射程300キロの地対地ミサイルで、ウクライナ政府がその供与を米国に求めている強力な兵器だが、バイデン政権は、ウクライナがロシア国内の攻撃にATACMSを使用すれば米国や北大西洋条約機構(NATO)がロシアとの戦争に直接巻き込まれる恐れがあるため、この要請に応じていないとされている。

HIMARSから発射されるATACMS(提供:Us Army/Planet Pix/ZUMA Press/アフロ)

 だが、クリミアの露空軍基地の爆発の状況を見ると、HIMARSからATACMSが発射された可能性を捨てきれない。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領上級顧問ミハイロ・ポドリャク氏は「ロシアの非武装化はグローバルな安全保障を確保するために不可欠だ。クリミアの未来は黒海の真珠、独特の自然と世界のリゾートを持つ国立公園になることだ。テロリストの軍事基地ではない。これはほんの始まりにすぎない」とツイートした。

 ウクライナ軍高官は米紙ニューヨーク・タイムズに「空軍基地での爆発の背後にウクライナ軍がいる。この基地はウクライナ南部でわが軍に対する攻撃のため定期的にロシア空軍の攻撃機が出撃する基地だった」と語っている。攻撃に使われた兵器の種類については明らかにせず、「もっぱらウクライナ製の装置が使用された」とだけ述べた。

 英紙ガーディアンによると、露海軍黒海艦隊旗艦のミサイル巡洋艦モスクワ(約1万2500トン)を撃沈したウクライナ製の対艦巡航ミサイル(最大射程約300キロメートル)を対地攻撃に使用したとの憶測も浮上している。