日本の低賃金は経済の枠組みを超え、もはや大きな社会問題となっている。賃金というのは基本的に企業の生産性に比例するものであり、業績が拡大しなければ賃金は上がらない。 成熟国家の場合、生産性向上のカギを握っているのはイノベーションである。 同じスキルや技術が何十年間も通用する時代ではなく 国民が継続的に学び直しできる環境がなければ経済成長を実現することは不可能である。(加谷 珪一:経済評論家)

社員全員に学び直しの機会を提供する独企業

 自動車部品大手の独ボッシュは、全世界の社員約40万人に対して本格的な学び直しの機会提供に乗り出している。ほぼ全社員が何らかの形でソフトウェアに関連したスキルを身に付けることを目指しており、教育にかかる費用は総額で3000億円近くに達するという。

 世界経済は1990年代以降、驚異的なペースで成長を続けてきたが、その原動力のひとつなっているのがIT(情報技術)であることは言うまでもない。ITの普及によって製造業の概念はもちろんのこと、サービス業のビジネスモデルも大きく変わった。

 今ではあらゆるビジネスがITをベースに再設計されるようになっており、ビジネスパーソンにとってITスキルの獲得はほぼ必須となりつつある。先端的な企業はこうした現実についてよく認識しており、多額の資金を投じて社員の学び直し(スキルアップ)を積極的に支援している。というよりも、社員の学び直しなしに、継続的な成長は実現できないと言い換えた方が正しいだろう。