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2014年5月、ウクライナ東部2州で親ロシア派が行った住民投票(写真:ロイター/アフロ)

(文:名越健郎)

ソ連創設から今年で100年。その崩壊を「悲劇」ととらえるプーチン大統領の下で、愛国勢力を中心に「ミニ・ソ連」創設の声が上がっている。一定の距離を保つベラルーシの思惑やウクライナの戦況を考えれば現実味が高いとは言えないが、南オセチアやウクライナ南部では住民投票の準備も進む。

 ロシア軍が占領したウクライナ南部ザポリージャ州の暫定行政当局は7月14日、同州のロシア編入の是非を問う「住民投票」を9月初めに実施すると発表した。ロシアが支配した東部のルハンシク州や南部のヘルソン州でも、併合住民投票を実施する動きが出ている。セルゲイ・ラブロフ外相は7月21日、「ロシアはウクライナ東部だけでなく、南部の制圧も目指している」ことを明らかにした。

 今年12月30日は「ソビエト社会主義共和国連邦」(ソ連)の創設100周年。ロシアの一部愛国勢力の間では、ソ連邦結成100周年に向けて、ロシアが支配するウクライナの一部やジョージアの南オセチア自治州、モルドバの沿ドニエストル地方、さらには連合国家創設条約を結ぶベラルーシを一括して併合すべきだとの議論が出始めた。実現すれば、「ミニ・ソ連」の誕生を意味し、ユーラシア地政学が大きく変動する。

 とはいえ、ウクライナの東部や南部では激しい戦闘が続いており、ウクライナ住民の抵抗も強い。プーチン政権が推進を図っても、難航しそうだ。

プーチンはレーニン批判

 ソ連邦が誕生したのはロシア革命から5年後の1922年12月30日で、モスクワのボリショイ劇場の舞台でソ連邦結成条約が調印された。これには、ロシア、ウクライナ、白ロシア(ベラルーシ)、ザカフカス(アゼルバイジャン,アルメニア,ジョージアの3共和国に該当)の4国代表が調印。参加国は平等で、自由な意思で参加・脱退できると定められた。1924年のウラジーミル・レーニン死後、ソ連憲法が制定され、共産党一党独裁の新体制が整った。

 ソ連邦創設は、脳出血で倒れていた革命の父レーニンや、ヨシフ・スターリン・ロシア共産党書記長らが主導した。

 ウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ侵攻直前の2月21日に行ったテレビ演説で、「現代のウクライナはすべてボリシェビキによって作られた。レーニンとその盟友らは、そこに住む何百万もの人々に相談もせず、極めて粗雑な手法でウクライナという国を作った」と非難した。

 大統領はさらに、レーニンは「独立派」と呼ばれたウクライナの民族主義者に譲歩し、巨大で無関係な領土を恣意的に形成したとし、「レーニン主義の国家建設は、単なる間違いではなく、悪と言っていい」と酷評した。ウクライナ共和国はロシアの土地に手違いで誕生したとの見立てだ。

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