今回は、企業から病院、老人保健施設での食堂運営、給食サービスの提供を行っているG社の取り組みを紹介する。G社のある部門では、病院における患者様の食事の予約管理から調理、配膳までのサービスを請け負っている。

ヒューマンエラー対策プロジェクト立ち上がる

 事業運営や管理・監督を行っているのはG社の社員だが、現場で実際に食事を作ったり、患者様へ配膳する仕事は派遣社員やパートタイマーの方が行っている。

 とある地域で1ヶ月間に立て続けに4件、お客様からのクレームがあった。その内容は、すべて誤配膳、予約受付間違いなど人のミス、いわゆる、ヒューマンエラーに起因するものであった。幸いにも今回起こしたクレームを原因とする患者様の健康被害は発生しなかった。病院では、さまざまな病気を持った患者様が入院し、薬を服用している。アレルギーを持っている患者様もいる。なかには、病気や薬、アレルギーの関係で口にしてはいけない食材がある患者様もいる。
 
 その地域を統括するマネジャーは「このまま、この事態を放置しては、いずれ大きな事故につながるのではないか。今のうちに何か手を打たねばいけない」との危機感から、早々に「ヒューマンエラー対策プロジェクト」を立ち上げた。

ポイントはヒューマンエラーリスクの見える化

プロジェクトを立ち上げるにあたり、マネジャーは、

  • 従来の再発防止型活動ではなく未然防止型活動に転換する。
  • 業務に潜むヒューマンエラーのリスク(危険性)をリストアップ、共有する。
  • 業務の実態を把握する。

の3つが今回のプロジェクトにおいて重要なことだと考えた。

 病院において患者様に食事を提供するということは、一つ間違えば重大な事故につながりかねない。そのような理由から、「なにか起こってから」対策を講じる再発防止型の活動では限界がある。やはり、何か起こる前に対策を講じる、つまり、未然防止型の活動が求められる。

 G社はまず、ヒューマンエラーのリスク(危険性)をリストアップを行った。食事提供サービス業務を詳細にならべ、どこにどんな人のミスが発生しうるかを検討、洗い出し、見える化した。その過程では食事提供サービス業務を改めて点検することとなり、その実態を把握することにつながる。ヒューマンエラーリスクを抽出する視点はのちほど触れたいと思う。

さらに、ヒューマンエラーリスクを見える化することで、以下のような効果も期待できる。

  • ヒューマンエラーリスクに対する感度が高まる。
  • 食事提供サービス業務においてどこに気を付ければよいかが共有でき、ヒューマンエラーに対する意識が高まる。

 ヒューマンエラーは現場で起こるため、まずは現場の人たちのヒューマンエラーに対する感度を上げることが必要である。ヒューマンエラーリスクを抽出する過程で、あらためて自分たちが行っている業務を見直して、どの作業でどんなミスをしそうかを一生懸命考えた。その中で、過去に自分が仕事をしている中で、うっかりミスをしそうになったこと、いわゆるヒヤリハットを思い出す人もいる。このような体験を通じてヒューマンエラーリスクを洗い出す視点が養われて感度が高まっていく。

  さらに、一人ひとりが抽出したヒューマンエラーリスクを整理して、見える化し、みんなで共有すれば、職場全体で業務を行う上で気を付けるべきポイントが共有され、個々人のノウハウが組織のノウハウになる。このように、ヒューマンエラーリスクを見える化する手法を「ヒューマンエラーリスクマップ」という。このマップを作るために必要な視点を見ていこう。