2017年にアルファ碁が中国・柯潔(かけつ)九段と対戦。AIが3局全勝した(写真:アフロ)

 2016年にGoogle傘下のDeepMind社が開発した囲碁AI「アルファ碁」が人類に初めて勝った。ボードゲームの中で碁は“最後の砦”と思われたが、Deep Learning(深層学習)の手法を使うことで、ブレークスルーしたのだ。

 当時、あと10年はAIが人間に勝つ日が来ないと思っていたプロ棋士たちは、AIの長足の進歩に驚いたものの、多くの棋士は新しい世界を見せてくれるAIをむしろ歓迎した。その強さを認めながらも、自身の棋力向上に役立てている棋士たちの姿を紹介したい。

AIに淘汰された定石、悪手が好手になることも

 まずはAIが囲碁界にもたらしたインパクトと、現在の「活躍」の状況について説明しておこう。

 人類よりはっきり強いAIが出現したことで、囲碁界は大きく変化した。まず、盤上では新しい定石や手段が打たれるようになった。

 もっとも象徴的なのが、今や主流となった「ダイレクト三々」だ。碁をたしなんでいる人ならお分かりかと思うが、カカリや受け、ヒラキなどがない星に直接三々に入るというのは、これまで人間の発想にはなかった。また、相手を「二立三析」の好形に導くコスミツケも昔は悪手だったが、AIによって見直され、今やごく普通の手として打たれている。

 また、ナダレや大斜など長手数の難解定石は、比較的短手数の変化に改良された。生き残った定石もあるが、淘汰されたものもあり、とくにベテラン棋士はこれまでの知識から大きくアップデートする試練に向き合わざるを得ない状況になっている。

 もうひとつ、研究の仕方が大きく変化したことも挙げられる。これまでは師匠や兄弟子などに、自分の碁を見せて教えを請うのが上達に欠かせなかったが、現在は自宅でAIに自戦をかけて研究することもできる。師匠や先輩に碁を見てもらうスタイルは、時間的制限がつきまとう。しかしAIならいつでもどこでも何度でも検討や研究ができる。強くなる機会が格段に増えたといえるだろう。