ドイツはロシアからの天然ガス供給減に備え、石炭火力発電の稼働を高める方針を明らかにした。写真はドイツ西部ゲルゼンキルヘンにある欧州最大規模の石炭火力発電所(写真:AP/アフロ)

(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

欧州主要国のCO2ゼロ公約は無意味なものに

 いま欧州は、ロシアの石油、ガス、石炭を代替供給源に置き換えることに躍起になっている。

 ロシアによるウクライナ侵攻のわずか3カ月前にスコットランドのグラスゴーで開かれた国連の第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)において、欧州の主要国が表明したCO2ゼロの公約は、意味をなさないものになっている。昨年来エネルギー不足と価格高騰に悩まされていた国々が、ロシアの暴走に直面し、エネルギー安全保障の問題が再燃した。

 冷戦終結後の数十年間、世界は安定し、エネルギーは容易に手に入った。このせいで、現代社会にとって豊富なエネルギーがいかに重要であるか、多くの人は忘れ去っていた。そして脱炭素ブームが起きて、社会が化石燃料に依存していることも忘れ去られていた。

 しかし、石油、ガス、石炭の供給は、依然として国家の運命を左右している。過去30年間にわたって再生可能エネルギーへの移行に世界は莫大な資金を費やしたが、この基本的な事実は変わらなかった。

 ウクライナでの戦争で、世界はまた新しい冷戦の時代に入った。そこではエネルギー資源の確保という根本的な問題が復活した。気候変動問題の優先順位は大きく下がった。

 だが皮肉なことに、エネルギー安全保障に焦点が戻ることで、CO2の削減はかえって進むかもしれない。