地域の安全監視任務に就く米空軍の「B-52」爆撃機(6月8日撮影、米空軍のサイトより)

 ここ数年、各国において極超音速兵器(Hypersonic Weapons)の開発が進んでいる。ロシアの「アバンガルド(HGV)」は、2019年12月に実戦配備されたと報じられている。

 ちなみに、ロシア国防省は3月18日にウクライナへの攻撃で極超音速ミサイル「キンジャール」を実戦に投入したと発表した。

 しかし、「キンジャール」は地対地短距離弾道ミサイル「イスカンデルM」を航空機搭載用に改修した「空中発射弾道ミサイル」であるとして、極超音速兵器に分類するのには専門家の間で異論がある。

 筆者も「キンジャール」を超音速兵器に分類するのに反対である。なぜなら、定義によれば、マッハ5以上で飛行する極超音速兵器とは次の2種類を指すからだ。

 一つは、ロケットから発射され、標的に向かって滑空する極超音速滑空弾(HGV:hypersonic glide vehicle)。

 もう一つが、標的を捕捉した後、高速の空気吸入エンジン(air-breathing engines)または「スクラムジェット(scramjets)」により加速される極超音速巡航ミサイル(HCM:hypersonic cruise missile)である(出典:米議会調査局報告書2020年8月27日)。

 さて、米国は、極超音速兵器の開発でロシア・中国に遅れていた。

 その理由は、米国はロシア・中国と異なり、極超音速兵器に核弾頭を搭載しないとしているため、爆撃効果が小さい通常型極超音速兵器の必要性・有効性に関して議会などで議論がなされてきたためである。

 ところが、最近の極超音速兵器がもたらす戦略的脅威の増大を受け、米国防総省と米議会は、極超音速兵器システムの開発および今後短期間に配備することに方向を転換し、極超音速関連プログラムの予算を増額した。

 そして、米国は、「極超音速空気吸入兵器コンセプト(HAWC:Hypersonic Air-breathing Weapon Concept)」の飛行試験に2021年9月と2022年4月の2回成功した。

 また、2022年5月には、「空中発射即応兵器(ARRW:Air-Launched Rapid Response Weapon)」の発射実験を成功した。

 米国は、極超音速兵器の開発でロシア・中国にやっと追いついたところである。

 さて、筆者は以前、「諸外国の極超音速兵器開発状況」に関する記事を投稿した。極超音速兵器の開発状況についてはそちらの記事(『音速の20倍時代に突入、極超音速兵器開発の全貌』2020.11.19)を参照されたい。

 ところで、極超音速兵器は、現在のいかなるミサイル防衛システムでも撃墜することはほぼ不可能であると言われている。

 そこで、本稿では、米国の「極超音速ミサイル防衛システム」の開発状況について述べてみたい。

 初めに、最近の米・中・露・北朝鮮の極超音速兵器開発状況について述べ、次に「おさらい」として米国の現用の弾道ミサイル防衛システムの概要について述べ、最後に米国の極超音速ミサイル防衛システムの開発状況について述べる。