大統領選に勝利したフェルナンド・マルコス氏(写真:ロイター/アフロ)

(山中 俊之:著述家/芸術文化観光専門職大学教授)

「どんな政策を実行するのかわからず不安だ」
「マルコス・ファミリーの利権が復活するかもしれない」

 フィリピン人の友人がつぶやいた。フィリピンで新しく大統領に選出されたフェルナンド・マルコス氏。1986年まで独裁政治を行っていたマルコス氏の長男である。

 マルコス氏の選挙は、とにかく異例ずくめだった。政策を明確化せず、公開討論会にも出席しない。かつての独裁色を薄めたイメージ戦略をとった。

 過去の父であるマルコス独裁政権について知らない若者の熱狂的な支持を取り付けて、現副大統領のレニー・ロブレド氏に圧勝した。現状に不満のある若者は、何かをしてくれそうなイメージを演出したマルコス氏を支持したのだ。

1986年まで独裁政治を行っていた父親のマルコス氏(写真:AP/アフロ)

 ロブレド氏は、貧困問題に取り組んできた弁護士出身。マルコス家と政治的な抗争を繰り広げてきたアキノ家に近い。

 マルコスvsロブレドの戦いは、2016年の米大統領選挙の構図と似ていると感じる。独断専行で空虚な中身しか話せないトランプ氏と、正論を掲げる弁護士出身のヒラリー氏。比較的年齢が高い男性候補と、その男性候補よりは若い女性候補という構図も似ている。

 今回のフィリピンでも勝利したのは、イメージ先行で具体的政策が見えない政治家である。雰囲気に流される国民の投票行動が、今回も発揮された。

 今回のマルコス氏の当選には、その政策の空虚さから懸念を感じざるを得ない。政治権力には関心があっても、政策には関心が薄いのではないか。公開討論会への出席拒否は大統領候補者として有権者軽視といえるだろう。

 しかし、フィリピンを「混乱の国なのでビジネスに値しない国」と捉えてしまうと、大事なビジネスチャンスを失うことになりかねないと感じている。

 本稿では、政治が懸念されるフィリピンにおける、経済・ビジネス上の潜在的可能性について考えていきたい。