北朝鮮が発射実験を敢行した新型ICBM「火星17」

(ミン・ジェウク:日韓関係専門家、フリー記者)

 これまで新型コロナの感染者が一人もいないと主張してきた北朝鮮だが、感染力の強い「オミクロン型」の感染者が見つかったと5月12日に初めて公式発表した。コロナワクチンの接種が全くなされていない上に、医療体系が劣悪な北朝鮮にとっては、まさに地獄の門が開いたようなものだ。

 そんな危機的な状況の中、北朝鮮は同日、日本海上に短距離弾道ミサイル3発を発射したと、韓国軍合同参謀本部が明らかにした。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権がスタートしたわずか2日後、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を打ち上げてからも5日後であり、今年16回目の武力による挑発だ。

 大統領候補者の時代から、何度も北朝鮮のミサイルに対して断固たる立場を取ってきた尹錫悦大統領と新政府に対する牽制と言える。

 韓国軍と情報当局は、今回の短距離弾道ミサイルは北朝鮮が「超大型放射砲」と命名した「KN-25」と推定。専門家たちは、発射管が5個(5連装)のKN-25である可能性も指摘している。北朝鮮が超大型放射砲を打ち上げたのは2020年3月以降、約2年ぶりで、この日の3発はほぼ20秒間隔で発射された。

 超大型放射砲は、「放射砲(多連装ロケットの北朝鮮式名称)」という名称になってはいるが、韓米軍当局は精密打撃能力を高める誘導機能などを搭載していることから、短距離弾道ミサイルと分析している。核弾頭の小型化に成功したとすれば、戦術核兵器となるわけだ。

 北朝鮮がコロナ感染者を初めて認定し、防疫体制を最大警戒レベルに切り替えたと発表した5月12日、韓国では、新政権の統一相候補になっている権寧世(クォン・ヨンセ)氏が人事聴聞会で、北朝鮮に対するワクチン供与などの意向を明らかにしていた。韓国の人道支援に対して、北朝鮮は対韓国攻撃用の武力挑発で応じた格好になった。

 この挑発に、尹政権は断固たる立場を見せた。国家安保室は金聖翰(キム・ソンハン)室長主宰の点検会議を開催。その席で、ある参加者が「北朝鮮の度重なるミサイル発射は、韓半島と北東アジアの緊張を高め、国際平和と安全を威嚇する重大な挑発行為である指摘し、強く糾弾した」と明らかにした。

 コロナ感染者の存在を3年間隠し通していた北朝鮮が、コロナ感染の発生を知らせたということは、それだけ人道支援が必要ということだ。それにもかかわらず、武力挑発を敢行したということは、金正恩(キム・ジョンウン)政権がコロナ危機の克服よりも政権維持を固守しているということを証明している。