韓国の尹錫悦大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領が、前政権に鋭い刃を向け始めた。5月17日、組閣の目玉人事となっていた法務部長官(法相)に、野党「共に民主党」の激しい反発を受けながらも、彼らがもっとも恐れる男・韓東勲(ハン・ドンフン)前検事長を任命したのだ。

 韓氏は尹大統領の検察時代の側近中の側近で、「曺国(チョ・グク)事件」の捜査を陣頭指揮した人物で、そのために対立した文在寅政権から「報復性左遷」を何度も経験させられてきた。その韓氏の華麗なる復帰は、前政権の不正に対する捜査開始の号砲になると見られている。

新法相は元検察のエース

 法務部長官となった韓東勲氏は1973年生まれで、韓国の富裕層を象徴する「江南」で成長し、ソウル大学法学部在学中の1995年に司法試験に合格した秀才。司法研修院を修了して兵役を終えた2001年から検察組織の花と呼ばれる「ソウル中央地検」で検事生活を始め、米国コロンビア大学ロースクール研修中にニューヨーク州弁護士資格を取った。

法務部長官に就任した韓東勲氏(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 若いころからSKグループ粉飾会計事件、現代自動車グループ秘密資金事件など、世間の注目を集めた事件に投入された。韓氏は複雑な企業会計を巧みに暴き出し、崔泰源(チェ・テウォン)SK会長、鄭夢九(チョン・モング)現代自動車会長の拘束に大きな役割を果たし、経済犯罪捜査のエースとなった。

 2006年、最高検察庁の検察研究官時代に、尹錫悦検事と出会い、以後、特捜部のエースに浮上する。2017年、朴槿恵(パク・クネ)国政壟断事件当時は、尹錫悦検事とともに特検チームに合流し、李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子会長を贈賄罪で拘束させるのに決定的な役割を果たした。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権に入ってからは、2018年に李明博(イ・ミョンバク)前大統領の捜査を担当。特定犯罪加重処罰法上賄賂など16つの容疑で李明博前大統領を法廷に引きずり出し、2019年には、サムスンバイオロジックの粉飾会計事件の捜査を指揮した。こうして着実にキャリアを重ねていった韓氏は、2019年7月、尹錫悦検事総長時代に、最高検察庁の反腐敗・強力部長に任命され、歴代最年少検事長記録を打ち立てた。