(左)ヤマト運輸株式会社 専務執行役員(社長室担当)兼 ヤマトホールディングス株式会社  専務執行役員(社長室、イノベーション推進担当)牧浦 真司 氏
(右)ヤマト運輸株式会社 執行役員(DX推進担当)中林 紀彦 氏

 売り上げ1兆7900億円、社員数約22万人の業界大手ヤマトグループが、次なる成長に向けて2つの方向から企業価値向上に取り組んでいる。宅急便というイノベーションに続く新たなイノベーション戦略と、経営体質を強化するデータ・ドリブン経営の推進だ。現在どのような取り組みが展開され、どんな未来に向かっているのか。イノベーション戦略を推進する専務執行役員の牧浦真司氏とデータ・ドリブン経営をリードする執行役員の中林紀彦氏に聞いた。

長期的な視点と広いスコープの2軸で次なるイノベーションを探索中

――イノベーション戦略を推進する背景について伺います。

牧浦 これまで経営構造改革に取り組んできた中で、当初からテクノロ
ジーによる経営構造改革、つまりDXを柱の1つに位置付けてきました。そ
の延長線上にあるものがイノベーションです。

 企業には経営構造改革だけでなく、イノベーションが必要です。イノベーションは企業にとって永遠の課題ですが、イノベーションが起きない組織には永続性はありません。そこで、まずはテクノロジーで経営を支えるというところから着手し、現在データ・ドリブン経営を進めています。
そして今は、イノベーションにフォーカスしています。

 当社グループは元々イノベーション企業を標榜してきましたが、宅急便というイノベーションがあまりにも素晴らしかったために、それに匹敵する次のイノベーションを生むことに高い壁がありました。

――具体的にはどのような活動に取り組んでいるのでしょうか。

牧浦 通常の現場では単年度など、直近の傾向を見て業務を進めていま
すが、イノベーション推進部門としては短くて3年、長ければ5年、10年を展望しています。その中では、現在の事業とは直接関係がなくても将来的に大きく関わってくるであろう領域まで含めて見ていく必要があります。長期的な視点と広い領域のスコープの2軸でイノベーションの探索に取り組んでいるところです。

 イノベーションに対する基本的な姿勢は“ベスト・オブ・ブリード”です。世界中から一番良いものを見つけ、オープンイノベーションによって今の当社グループにはないものをつないでいきます。その仕掛けとして2020年3月に立ち上げたのが、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)ファンドの「KURONEKO Innovation Fund(KIF)」です。
KIFでは、日本だけでなく、シリコンバレーやヨーロッパ、中国などのスタートアップへ投資を行っています。そこで生まれた新しいテクノロジーの中には、すぐに事業に活用できるものもあります。

 ここ2年の間にいくつかオープンイノベーションによって生まれたサービスがあります。例えば、ECサイト関連の事業を行う英国のスタートアップ、Doddle社との連携です。特定のECサイトで購入した商品をお客さまの生活動線上にある受け取りやすい店舗で受け取ることができるサービスを2020年11月から開始しました。

 また、イノベーション推進部門には新規事業開発のチームがあり、事業部と連携しドローンや自動運転などの新しいテクノロジーを活用した取り組みを進めています。

――イノベーションの幅広い取り組みの中から芽が出つつあるというところでしょうか。

牧浦 土壌としてヤマトグループの膨大な経営資源があります。その豊
かな土壌の上にいろいろな種をまいて、出てきた芽を育てていこうとしているところです。