ドラッグストア大手のツルハホールディングスは、2019年ごろよりグループ公式アプリの配信を始めるなどDX推進を着々と推し進め、今冬には独自のキャッシュレス決済サービスの導入も予定しているという。目まぐるしく様変わりする業界の潮流に合わせて、同社はDXをどのように進めてきたのか。執行役員であり、経営戦略本部長 兼 情報システム本部長を務める小橋義浩氏が語る。

※本コンテンツは、2022年3月25日(金)に開催されたJBpress主催「第7回 リテールDXフォーラム」の特別講演Ⅰ「ツルハグループのDX戦略」の内容を採録したものです。

数十年後への危機感がDX推進のきっかけに

「ツルハドラッグ」や「くすりの福太郎」など、8つの屋号で国内に2491店舗(2022年3月15日現在)ものドラッグストアをチェーン展開するツルハグループ。競合他社の出店や価格競争が激化する中でも、「くらしリズム」や「くらしリズム MEDICAL」といったプライベートブランド商品の新規開発や改良を積極的に推進。良質で購入しやすい商品の提供に努め、地域医療の担い手として身近で安心できるサービスを届けている。

 そんなツルハグループがDXに取り組み始めたのは、およそ3年前のことだ。ドラッグストア業界は長らく追い風の時代を過ごしてきた。小橋氏も「適切な場所に新店舗を出店し、チラシを配布してお求めやすい価格で商品を提供すれば周辺のお客さまが来店してくださる、という形で事業を成長させていくことができた」と述懐する。しかし、2000年代に「GAFAM(ガーファム)」などと称されるビッグテック企業が登場し、業界は一変。デジタルの力があっという間に業界地図を塗り替え、既存の事業者にゲームチェンジを迫った。その様子を目の当たりにして募らせた危機感が、「DXに取り組まなければならない」と考えるに至った一番の要因だという。

「デジタルシフトする」というステップの必要性

 2018年に経済産業省が「DX推進ガイドライン」を取りまとめたことをきっかけに、徐々にビジネスの現場に浸透してきた「DX」。しかし、「DXとはこれだ」と明確に定義できる者は少ない。輪郭のはっきりとしないDXの価値や意味を企業全体で共有することは容易ではなく、それはツルハグループにおいても同様だった。では、同社はどのようにしてDXへの取り組みを推し進めていったのか。

「『デジタルトランスフォーメーションしましょう』と言われると、どうしても何かをより良く変えなければならないという発想になってしまいます。しかし、物事はそう簡単にはいきません。ですから、まずは『デジタルシフトしましょう』と伝えることにしました。これまでアナログだったことをデジタルにシフトし、そこからさらに先へと進む。このステップが必要だと考えました」

 デジタルシフトへの取り組みとして最初に着手したのが、ツルハグループアプリの構築だった。これには顧客とデジタルで接点を持つという目的があった。

「従来、私たちはチラシを配布し、お客さまの来店を促すというアプローチをとっていました。ですが、昨今は新聞の購読率が減少し、チラシを見る機会も減っています。これでは伝えたい情報がお客さまに届きません。そこで、今や国民1人1台は持っているともいわれているスマートフォンを、新たな接点にすることにしました」

 2019年5月にプロジェクトを立ち上げ、約半年後の同年11月にローンチ。2022年2月現在、ツルハグループアプリは8種合計500万ダウンロードを達成している。