
街中の店に入ると、店員がタブレットなどのデバイスを持って接客するシーンが当たり前になってきた。では、そのデバイスにより、一体どれだけのビジネスメリットが生まれているのだろうか。
この観点で注目したい事例がある。ヘアカット専門店「QB HOUSE」を展開するキュービーネットの取り組みだ。同社は、顧客向けモバイルアプリを開発し、そのデータを従業員が見るタブレットと連携。これにより、顧客、従業員、企業に“三方良し”のメリットを生んだ。
そして、このアプリとタブレットの連携を支えているのが、MDMサービスの「CLOMO MDM」だ。本記事では、キュービーネットの取り組みを紹介するとともに、それを下支えするMDMサービスに触れたい。
顧客、従業員、会社のすべてにメリットを生んだQB Passport
キュービーネットといえば、「ヘアカット専門店」のサービスモデルで急成長したQB HOUSEを展開する企業である。しかし、徐々に類似モデルの店舗が増え、価格競争も過熱する中、新たな付加価値や差別化の方法を模索していたという。
そうして生まれたのが、冒頭で紹介したモバイルアプリだ。
同社が制作したアプリは「QB Passport」というもの。機能を簡単に説明すると、顧客はアプリから店舗の混雑状況を確認できる。また、希望のカット内容を事前に伝え記録できる「電子カットカルテ」も搭載している。さらに、クレジットカードを登録すると、来店予約を行え、予約後はアプリ内でキャッシュレス決済が可能となる。
このアプリは、2020年6月から提供開始。同社が展開する2つの店舗ブランド、「FaSS」と「QB PREMIUM」で使うことができる。
ここで、このシステムが顧客、従業員、企業の“三方”にどんなメリットを生んだのか、それぞれ見ていきたい。
まず顧客のメリットについてだが、これは分かりやすい。予約機能による待ち時間の削減や、キャッシュレスでの前払いが可能になり、現地での支払いの手間が省けたこと、電子カルテで要望を細かく伝えられることなどが挙げられる。また、対応したスタイリストへフィードバック機能も搭載されている。
もともとQB HOUSEなどの店舗は、予約機能がなく、来店して券売機でチケットを買い順番を待つサービスモデルだった。そうして、順番が来たら顧客はスタイリストに希望のカットを伝える。これらの作業を事前にアプリで出来るとなれば、利便性も増し、顧客満足度が上がるのは分かりやすい。
従業員の働きやすさ、企業の利益アップにつながった機能とは
次に、従業員(スタイリスト)に生まれたメリットはどんなものか。ここでポイントになるのが、店舗の各席に置かれたタブレットだ。
このタブレットからは、さまざまな顧客データが見られる。たとえば、来店した顧客があらかじめQB Passportに入力した電子カルテの内容、あるいは、その顧客が過去に来店した際のカット要望と出来上がりの写真などである。過去のカット要望については、顧客からのリクエストをバリカンのカット何ミリといった細かさで登録できる。
これにより、スタイリストは顧客のリクエストや嗜好をより細かく把握できるようになった。それはスタイリストの働きやすさ、すなわち従業員メリットにつながる。対応したお客様へのフィードバックもあるため、モチベーションアップにも繋がる。
ちなみに、キュービーネットのスタイリストは、より多くのオーダーやスタイルの経験値を積むために、特定の店舗に所属しながらも、他店舗への応援出勤することもあり、知らない顧客、初めての顧客と接するケースが少なくない。その中で、電子カルテは顧客の要望を効率良く知る重要なデータになっている。
また、タブレットから現在の予約状況も見られるため、スタイリストは仕事のペースも作りやすくなったという。
最後に注目したいのは、このシステムがもたらした会社へのメリットだ。メリットは多数あるが、たとえば電子カルテによってカット前のカウンセリング時間が短縮。事前決済によるレジ対応時間も短縮され、顧客回転率が上がった。また、スタイリストへの定期面談時のフィードバックやトレーニングメニューも拡充されることになった。
さらに大きかったのが、予約の歩留まり向上だ。同社は、以前もWEB予約システムを導入したが、直前のキャンセルや予約した顧客が来店しないケースが多かったという。しかし、アプリに前払い機能がついたことで、予約者の来店率が上がったのだ。
会社のメリットはこれだけではない。アプリから顧客データが蓄積されるため、それを分析し、次のビジネスに活かせるようになった。
こういったことから、顧客、従業員、会社に「Win-Win-Win」のメリットを生んだといえる。なお、QB Passportはサービス開始から2年弱ほどで会員数5万人を突破。アプリからの予約率はFaSSの店舗で約55%、もっとも高い店舗では75%になっているという。(※2022年5月1日現在、以下同)
120台以上のタブレットをどのように管理しているのか
QB Passportのアプリが使える店舗は、全国に15箇所ある。これらの店舗には、タブレットが受付に1台、そして各席に1台ずつ置かれている。合計120台以上は使われているようだ。
では、これらのタブレットの管理はどうしているのか。というのも、QB Passportのシステムを使うには、それぞれのタブレットにiPad専用アプリをインストールする必要がある。また、日々改良を続けているがゆえに、頻繁なアップデートも発生する。それらを毎回1台ずつ手作業でまかなうのは難しい。そこで活用されているのが、MDMサービスの「CLOMO MDM」だ。
MDMサービスとは、「モバイルデバイス管理(Mobile Device Management)」のこと。企業が多数のモバイルデバイスを使う際、それらの端末を遠隔から一括管理できるのがMDMサービスだ。
たとえば、複数のデバイスへのアプリインストールやアップデートを一斉に行う、あるいは、デバイスの紛失時にロックをかけてデータの漏洩を防ぐなどである。また、従業員が業務と無関係のアプリを使用しないよう、デバイスの機能を制限することも可能だ。
CLOMO MDM(以下、CLOMO)も、そういったMDMサービスのひとつ。では、どんな経緯でキュービーネットのシステムに導入されたのだろうか。CLOMOを提供するアイキューブドシステムズの粟田真氏(同社 営業本部コンサルティングサービス部 テクニカルコンサルタント)は、こう振り返る。

「お話をいただいたのは、QB Passportがローンチされる1年以上前。アプリの構想はすでにあり、店舗で使う多数のタブレットを本社で一元管理するMDMを探しているとのお話でした。まずは1店舗、5 ~10台のiPadで試験運用し、徐々に店舗や端末の台数を増やすプランでしたね」
キュービーネットが強く求めていたのは、遠隔でタブレットへのアプリ配信とアップデートを一括で行える機能。また、スタイリストに向けたスキルアップ動画のURLを遠隔で直接タブレットに配信したいという要望もあったという。
「URLを送るだけなら、メールで送る方法もあります。しかしその場合、メールソフトを開き、URLをクリックするなど、スタイリストが動画を見るための作業は増えます。たくさんの人が使う端末だからこそ、それぞれのITリテラシーもばらつきがあるので、なるべく簡単な操作が必要になってくるのです」
そういった要望に応える運用環境を、粟田氏はキュービーネットと共に作ったという。また、MDMに必要な初期設定もサポート。「初期設定を細かく行えば、その後、端末台数を増やすのは難しくありません」と粟田氏。実際、現在は120台以上のデバイスが連携しており、別の事例では、5万台のデバイスを管理しているケースもあるという。
三方良しの効果を生んだQB Passport。そのシステムを下支えしているのが、CLOMOというMDMサービスなのだ。
機能拡張や情報漏洩リスクの備えに。高まるMDMのニーズ
今後も、業務で多数のモバイルデバイスを扱う企業は増えるはず。その中で、CLOMOのようなMDMサービスの役割は重要になるという。粟田氏がその理由を語る。
「モバイルデバイスを業務で使う場合、機能の追加やアプリのアップデートといった“ 活用範囲の拡大に伴う機能拡張”のシーンは頻繁に出てくるでしょう。遠隔からのデバイス一括管理により、デイバスを回収することなく、運用を継続しながら機能拡張を簡易に進められるMDMはフレキシブルかつスピード感のある運用に無くてはならないと思います」
一方、モバイルデバイスの導入が進めば進むほど、企業はそのデバイスからの情報漏洩リスクに備えなければならない。その点でも、遠隔から端末にロックをかけたり、位置情報を取得できるMDMの機能がポイントになるという。
モバイルデバイスを業務に使うシーンが増える中、必要性が高まるMDMサービス。顧客や従業員、会社に新しい価値を生むシステムには、CLOMOのような基盤が重要な要素となるかもしれない。QB Passportの事例は、その1つといえるだろう。
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