ルーマニア・コンスタンツァ沖の海上で演習を実施するルーマニア、英国、米国の海上NATO軍(2022年5月9日、写真:ロイター/アフロ)

(北村 淳:軍事社会学者)

 イギリスがNATOの対象領域を北大西洋地域だけでなくインド洋・太平洋地域へも拡大すべきであると主張している。

 NATOの活動範囲の拡大に関してはこれまでもしばしば議論が持ち上がってはいたが、4月末にエリザベス・トラス英国外相が、中国を仮想敵にしたNATO対象領域拡大の必要性を公言した。具体的事例として「台湾における民主主義を中国の魔手から守るためにNATOも台湾を支援すべきである」というのである。当然ながら、トラス外相の発言に対して中国は猛烈に反発している。

極東地域に再びプレゼンスを示せる英国

 アメリカの軍事力・外交力は確実に低下しているが、NATOにおいてアメリカの右腕として番頭格の地位を維持しているイギリスは、かつてのように世界規模での覇権を再び手にすることなどは全く考えてはいないであろう。しかし、現在音を立てて崩れつつあるアメリカの覇権を(中国やロシアではなく)NATOによって取って代わらせることができれば、イギリス~アメリカと続いてきたアングロサクソン系の覇権を維持することが可能になる。

 そのため、NATOの設立趣旨とは無関係である極東地域にまで、NATO諸国を引きずり出すことができれば、香港を中国に返還した後はイギリスのプレゼンスがほぼ完全に消滅してしまった極東地域に、アメリカと相乗りする形ではあるが再びプレゼンスを示すことができるという仕組みだ。