5月8日、香港の行政長官選挙で当選が決まった李家超氏(写真:ロイター/アフロ)

 香港のトップ、第6期行政長官を決める「選挙」が、5月8日に実施された。選挙にあえてカギカッコをつけたのは、われわれ民主国家から見れば、あまりにお粗末なイベントだったからだ。

 まず、「香港のトップ」を決める選挙のはずなのに、750万香港人のほとんど全員に投票権がない。投票権を持つのは、北京(中国政府)の篩(ふるい)にかけられた1500人の選挙委員だけだった。

 加えて、立候補者は、たったの一人。習近平(しゅう・きんぺい)主席のお気に入りで、香港警察のトップとして、2019年の民主化デモの取り締まりで「実績」を挙げた李家超(り・かちょう)香港特別行政区政府政務司長だ。「自由都市」を標榜していた香港で、警察出身者がトップに立つのは前代未聞のことだ。

得票率は99%超

 投票は、5月8日日曜日の午前9時から午前11時半まで行われたが、李家超司長があっさりと、1416票を獲得し、当選に必要な750票を超えてしまった。正確に言うと、有効投票総数が1424票で、わずか8人の「造反」があっただけだった。得票率99.4%! まるで「全票通過!」と誇る中国大陸の「選挙」を見るようで、台湾の『自由時報』は「一人摸式」(独り芝居)というタイトルを付けて速報していた。

 晴れて当選を果たし、返還25周年の7月1日から5年にわたって行政長官を務めることになった李家超司長は、初めて林麗嬋(りん・れいたん)夫人を伴って登壇。似合わない愛想笑いを浮かべながら、こう述べた。

「選挙委員の一人ひとりに、心から感謝します。支持してくれた人にも、支持してくれなかった人にもです。なぜなら、彼らは本日の行政長官選挙の投票日は支持してくれたのですから。

 今日は母の日です。またブッダの誕生日であり、世界スマイルデーでもあります。それに加えて、とても喜ばしい香港の歴史的な日となりました」