沿ドニエストル・ティラスポリ市中心部のソ連戦車(写真はすべて筆者撮影)

 ウクライナ南部と境界を接する「未承認国家」沿ドニエストル・モルドヴァ共和国(以下、沿ドニエストル)で緊張感が高まっている。

 4月22日にロシア中央軍管区副司令が沿ドニエストル回廊を確立することに言及した直後から、域内で偽旗作戦と思しきテロが頻発している。

「親ロ派」と称される沿ドニエストルだが、当初から極めて慎重な立場をとってきた。

 ロシアによるドンバスの2つの人民共和国「国家承認」や「特別軍事作戦」発動に際して、沿ドニエストル当局は論評を加えず、住民に対して平穏と出国自粛を呼び掛け、そして避難民を受け入れる用意があることを表明しただけであった。

 域内に平和維持軍と称するロシア軍部隊を抱えているが、何とかウクライナ戦争外に身を置きたいという沿ドニエストル政府の苦悩が見え隠れする。

ロシアと境界を接しない沿ドニエストル

 沿ドニエストルが曖昧な態度をとり続けている理由は簡単だ。

 沿ドニエストルはロシア連邦と境界を接しておらず、ウクライナ、モルドヴァに境界を囲まれた内陸国であるからだ。

 対応を誤るとウクライナ、モルドヴァから制裁・封鎖を食らって一瞬で干上がってしまう。

 ロシアと違い、沿ドニエストルは食料、医療品からエネルギー、工業原材料に至るまであらゆる自給率が低く、しかも基金や外貨準備の蓄えがほとんどない。

 逆に言うと、1992年の沿ドニエストル紛争停戦から30年間、沿ドニエストルが存続してきたことは、ウクライナ、モルドヴァと一定の関係を維持してきた証でもある。