ロシアのミサイル巡洋艦モスクワ。2003年5月撮影(写真:ロイター/アフロ)

(在ロンドン国際ジャーナリスト・木村正人)

[ロンドン発]ロシア海軍黒海艦隊旗艦のミサイル巡洋艦モスクワ(約1万2500トン)がウクライナの開発した地対艦巡航ミサイル(ネプチューン)2発によって撃沈された。ウクライナ戦争に与える影響について、香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官に緊急インタビューした。

「火災で搭載弾薬が爆発」はあり得ない

――モスクワ沈没の一報を聞いて何を思われましたか。

香田洋二氏(以下、香田) ロシア側は最初、モスクワで火災が発生し弾薬が爆発したと説明したが、軍艦の特性上あり得ない話だと思った。ウクライナ側の対艦ミサイルによる攻撃だと予測できた。軍艦は基本的に武器と燃料と弾薬のかたまりで、その間に人間が寝泊まりしている。このため最大の危険物である搭載弾薬類には二重、三重の安全措置と装備が準備されている。

 戦闘被害ではなく通常の状態で火災が起きた時は、弾薬庫に二酸化炭素を充満させたり、普通のビルの約50倍の密度で設置しているスプリンクラーを作動させたり、最後の手段としてミサイル区画に海水を張ったりして爆発を防ぐ仕組みになっている。

 モスクワは両側に「SS-N-12(西側の識別番号)」という対艦ミサイルを8基ずつ甲板上にむき出して積んでいる。これは弾薬庫での保管とは異なるので海水の漲水などは困難であるが、火災の際には外部から大量散水して冷却するのが鉄則だ。戦闘以外の火災で爆発することは、乗員の拙劣な防火活動など極まれなケースを除きまずあり得ない。

 逆に、対艦ミサイルの命中による被害の際は、このような安全機構の全部または一部が作動不能となり、その結果、搭載ミサイルや弾薬の誘爆に至ることが多い。12時間後にモスクワが沈没したことを考えると、ミサイルの誘爆と二次被害による船体の破損がもたらした浸水という事態の公算が高く、ほぼ確実にウクライナの対艦ミサイルによる攻撃だと予測した。

 ウクライナ海軍は2月24日にロシア軍の攻撃が始まった時に大型の戦闘艦をすべて自沈させた。軍港を占領された場合、ロシア軍が自国の戦闘艦を無傷で使う事態を阻止するためであった。このことからウクライナ海軍艦艇による反撃力はほとんどなくなったので、今回の事態は、陸上あるいは戦闘機から発射した巡航ミサイルによる公算が極めて高い。

SNSに投稿された沈没前の「モスクワ」の画像。船体から黒煙が立ち上っている。船体側面には穴が開いているようにも見える(提供:REX/アフロ)